第6話 「黒い王の残響」
王都を襲った“奈落”の力。
リオンはそれを一瞬で消し去った。
だが、グレイヴの残した「黒い王」という言葉が、リズの心に重く響く――。
「ねえ、リオン。さっきの……あれは何?」
翌朝。
瓦礫の街を歩きながら、リズはリオンに問いかけた。
だが、リオンはいつもの調子で欠伸をひとつ。
「……夢でも見たんじゃねぇの?」
「嘘つかないで。あんな魔力、私でも分かる。
“人間”の力じゃなかった……!」
リズの瞳が震える。
リオンはしばらく沈黙したあと、空を見上げて呟いた。
「……昔な、俺は“黒い王”って呼ばれてた」
「黒い王……?」
「七年前、戦争を終わらせた英雄。
でも、同時に――世界を一度、滅ぼしかけたバケモノだ」
リズの顔から血の気が引く。
リオンは続けた。
「グレイヴはその時の仲間だ。俺が止められなかった“被害”の中に、奴の妹もいた。
だから、俺を憎んで当然だ」
「……そんな、じゃああなたは」
「もう、英雄なんかじゃねぇ。
ただの――怠け者だよ」
そう言って歩き出すリオンの背中は、どこか寂しかった。
けれど、その歩幅は、ほんの少しだけ前を向いていた。
◆◇◆
その夜。
リズは王都の司教に呼び出されていた。
古びた神殿の奥、蝋燭の灯りの中で、白髪の男が低く告げる。
「“黒い王”が再び動いたか。
やはり、彼を放ってはおけん」
「でも、リオンは――そんな人じゃありません!」
「純粋な善悪では語れぬ存在なのだ、彼は。
彼の力は“世界の均衡”そのもの。再び暴走すれば、この地は終わる」
その時、神殿の窓が破れた。
冷たい風が吹き込み、黒い羽根が散る。
「……誰が“暴走”するって?」
そこに立っていたのはリオンだった。
月明かりの下、その眼は静かに光っていた。
「監視でも処分でも勝手にしろ。
でも――リズに手ぇ出したら、神様でも許さねぇ」
圧倒的な威圧。
空気が震え、司教は一歩も動けない。
リオンが軽く指を鳴らすと、神殿の壁がひび割れ、柱が崩れた。
「……なぁ、俺さ。
本当は戦うの、嫌いなんだよ」
リオンの声が静かに響く。
だが、その瞳には確かな決意が宿っていた。
「でも、大切な奴を傷つけようとするなら――話は別だ」
黒い風が吹き抜ける。
リズが呆然と見つめる中、リオンは背を向けて歩き出した。
その姿に、リズは気づいた。
怠惰の中に眠る“王の威厳”が、確かにそこにあることを。
過去と向き合い始めたリオン。
彼の“黒い王”としての力、そしてそれを恐れる世界。
それでもリズは、彼を信じようとする。
次回、第7話「リズの誓い」
――少女は、怠惰の英雄と共に歩む道を選ぶ。




