第5話 「眠る獣、再び動き出す」
リズに「もう逃げないで」と言われたリオン。
その言葉が、彼の中に長く封印していた“何か”を揺らす。
そして、王都の闇が再び彼を呼び戻す――。
「……面倒くせぇな」
リオンは頭をかきながら、王都の南門へと向かっていた。
久々に感じる、街の喧騒。
だが、心のどこかで違和感が消えなかった。
「妙に静かだ……」
周囲に漂うのは、血の匂い。
通りを曲がると、倒れた衛兵たちの姿。
リズが言っていた“王都を狙う影”が、すでに動いていた。
「やっぱり……面倒なことになってるじゃねぇか」
そう呟くと、背後から声がした。
「やはり来たか、“怠惰の英雄”」
現れたのは、黒いマントの男。
仮面の奥から覗く瞳は、どこか懐かしい。
「……お前は、まさか」
「久しいな、リオン。俺だよ――グレイヴだ」
かつて共に戦った仲間。
そして、あの日、リオンが“見捨てた”はずの男だった。
「お前、死んだはずじゃ……」
「死んださ。お前のせいでな」
黒い霧がグレイヴの身体を包み込む。
その魔力は、かつての人間のそれではなかった。
「“奈落”に堕ちたのか……」
「そうだ。だが、この力で世界を壊すことができる。お前が守ろうとしたものすべてをな」
リオンの瞳がわずかに揺れた。
だが、次の瞬間には、あの無気力な調子に戻っていた。
「……いいぞ。壊したきゃ壊せばいい。
でも、俺の昼寝を邪魔するなら……殺す」
空気が変わった。
一瞬で地面が割れ、リオンの足元から漆黒の魔力が噴き上がる。
圧倒的な魔力。王都中の魔法士が一斉に気づくほどの異常な気配だった。
「来いよ、グレイヴ。――退屈は嫌いなんだ」
グレイヴが咆哮し、黒炎が街を覆う。
その中で、リオンは指を鳴らした。
「《混沌の断罪》」
一瞬。
炎が消え、音が止み、光が凍る。
視界が戻った時、グレイヴの姿は跡形もなかった。
沈黙の中、リオンが小さくため息をついた。
「……やっぱり、面倒くさい」
リズが駆けつける。
「リオン! 大丈夫!? 今の魔力、あなた……」
「俺じゃねぇよ。寝ぼけてたんだろ」
そう言ってリオンは、空を見上げる。
その瞳には、かすかな決意の光。
――“怠惰の英雄”は再び目を覚ます。
リオンの前に現れた“元仲間グレイヴ”。
彼が堕ちた理由、そして“奈落”とは何か。
少しずつ、リオンの過去と世界の真実が明らかになっていきます。
次回、第6話「黒い王の残響」――
かつての英雄たちの影が、再び動き出す。




