第4話 眠れる英雄、王都へ
第4話では、黒翼竜との戦いを終えたリオンが、
王都の召喚によって“再び”社会に引き戻される場面を描きます。
登場人物も一気に増えます。
「勇者」「王女」「魔導官」など、表の世界の象徴たち。
そしてその中で、リオンが再び“やる気ゼロ”に戻る様子をお楽しみください。
黒翼竜討伐から三日後。
王都・アークレイン。
世界最大の城塞都市は、英雄の帰還を祝う旗で埋め尽くされていた。
だが、その中心に立つ本人は、
まったく嬉しそうではなかった。
「……なんで俺が、パレードなんか出なきゃなんねぇんだ」
王宮前の大広場。
王女リゼルが壇上から手を振る中、
リオンは欠伸を噛み殺しながら、片手で顔を隠していた。
「リオン様、もう少し笑顔を……!」
「無理。寝たい」
横で焦るエミリアをよそに、
彼はまるで“帰りたいサラリーマン”のような顔をしていた。
群衆の歓声が上がる。
「英雄リオン様だ!」
「黒翼竜を倒した男!」
——その言葉が、逆に彼の胸を刺した。
倒した、というより……壊した。
あの夜、竜も、村も、世界の一部も。
「英雄なんて、呼ばれたくねぇ」
ぼそりと呟く声は、歓声の中で誰にも届かなかった。
そのとき、背後から男の声がした。
「謙遜することはない、英雄殿」
振り返ると、
純白の鎧を纏った青年が立っていた。
金髪に蒼い瞳、まるで絵から抜け出したような姿。
「初めまして。俺はグレイ・ヴァルト。王国公認の“勇者”だ」
「……勇者ね。眠れなそうな職業だな」
「ははっ、君は本当に面白いな」
グレイは笑いながらも、
その瞳の奥には探るような光が宿っていた。
「黒翼竜を、たった一人で討伐した男。
君の魔力出力は、我々王国軍の計測器では測定不能だったらしい」
「へぇ。じゃあ壊れたんだな、測定器」
リオンの軽口に、グレイは笑いながら一歩近づく。
「君のような力があれば、世界を救える」
「いや、寝る」
「……君、本気で言ってるのか?」
「寝るのは本気だ」
グレイの笑顔が一瞬、凍った。
その背後にいた魔導官の一人が、
小声で「無礼だ」と呟くのが聞こえた。
リゼル王女が間に入るように前へ出た。
「やめなさい、グレイ。
リオン殿は、王国の恩人です」
王女の声は柔らかいが、どこか儚い。
彼女もまた、何かを抱えているように見えた。
「リオン殿。黒翼竜の残滓が、王都近郊で観測されました。
あなたの力を……再び貸していただけませんか」
「……残滓、ね」
風が止む。
空気が重くなる。
黒翼竜を倒した直後のあの“黒い霧”が頭をよぎった。
まさか、あれがまだ——?
「……嫌な予感しかしねぇ」
「では、お引き受けを?」
「……寝て起きたら考える」
リゼルが少し笑った。
「ふふ……あなたらしいわね」
その時、城壁の方角で爆音が響いた。
空が赤く染まり、魔力の嵐が吹き荒れる。
誰かが叫ぶ。
「城外に、異形体出現──黒翼の、残滓です!!」
人々が悲鳴を上げる中、
リオンはため息をついた。
「はぁ……また寝れねぇのかよ」
外套を翻し、光の中へ踏み出す。
その背に、黒い紋様が浮かび上がった。
グレイが息を呑む。
「まさか、それは……“魔導の刻印”!?」
リオンは振り返らずに言った。
「英雄なんて呼ぶな。俺はただの怠け者だ。
でも——」
風が巻き、地面が震える。
「寝る時間を奪うやつは、許さねぇ」
次の瞬間、黒い光が王都の空を裂いた。
お読みいただきありがとうございました!
第4話では、リオンが王都に戻り、
“表の勇者”たちと対面することで新たな火種が生まれました。
グレイという「理想の勇者」と、怠惰な“元英雄”リオン。
この正反対の2人が今後、どんな関係になるのかが物語の軸になります。
次回、第5話【勇者と怠惰】では、
初の“共闘”──そして衝突が描かれます。
リオンの「面倒くさい」が、
世界の運命を変えていく。




