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第1話 面倒くさい世界

お読みいただきありがとうございます。

この第1話では、普段やる気ゼロの主人公・リオンの“日常”を中心に描いています。

ギルドでの怠けっぷり、そして「黒翼の竜」の名前を聞いた瞬間に変わる彼の表情——

そこに、この物語のすべての始まりがあります。


リオンは「やる気がないのに強すぎる」というギャップ型主人公。

その“眠っていた理由”を少しだけ感じてもらえれば嬉しいです。


それでは、本編をどうぞ。

ギルドの朝は、相変わらずうるさい。

新人たちが依頼書を奪い合い、受付嬢が悲鳴を上げ、奥では酒の臭いが漂っている。


その混沌の中で、一人だけ空気を無視して寝ている男がいた。


「おいリオン! また寝てるのかよ!」


怒鳴り声に、リオンは枕を抱いたまま、片目だけ開けた。


「んー……起きてる、夢の中で」


「それ起きてねぇだろ!」


怒鳴ったのは、冒険者仲間のダグ。

筋肉だけでできたような男で、リオンとは正反対。


ギルド一の怠け者として有名なリオン・クロード。

その異名は「寝落ちのリオン」。

依頼より昼寝を優先し、戦闘より昼飯を大事にする。


そんな彼に、今日もギルドマスターの怒声が飛んだ。


「リオン! お前、三週間も依頼受けてねぇぞ!」


「うーん……俺、働くために生まれたわけじゃないし」


「じゃあなんで冒険者やってんだ!」


「寝るため」


ギルド中がどっと笑いに包まれる。

リオンは枕を抱いたまま、ソファで体勢を変えた。

まるで世界の全てがどうでもいいという態度だ。


だが、受付嬢のエミリアがやってきた時、空気が一変した。

彼女の手には一枚の依頼書。

その封蝋には、王国紋章——“特級討伐依頼”の証が刻まれていた。


「リオン……あなたにしか、頼めない依頼があるの」


「んぁ? また厄介そうなやつ?」


「……黒翼のヴェルグラードが現れたわ」


その名が発せられた瞬間、ギルドの笑いが止まった。

ダグでさえ、拳を固める。


リオンの指がピクリと動く。

瞼の奥で、燃え盛る十年前の光景が蘇った。

あの日、家族を、故郷を、全てを奪った存在。


「……黒翼、ねぇ」

彼はゆっくりと起き上がる。


さっきまでの眠たげな顔は消え、

冷たく研ぎ澄まされた瞳が現れる。


「面倒くさい……けど、まぁ……少しくらい動いてもいいか」


リオンが立ち上がると、周囲の空気が変わった。

まるで世界そのものが息を呑んだかのように、音が消える。


エミリアは息を呑み、囁いた。

「……それ、まさか……“魔導装束アークコード”?」


黒いマントの裾が揺れる。

その内側から、深淵のような魔力が滲み出す。

床の魔法陣が淡く光り、空気が震える。


「十年ぶりに着るからな。ホコリ被ってたぜ」


「リオン、お前……本気で行くのか?」


「行くさ。寝る前に一仕事くらい、いいだろ」


冗談のような口調なのに、誰も笑えなかった。

その背中から放たれる圧は、かつて“七国を沈めた”と噂された災厄のそれだった。


ギルドの扉を開け、外の光を見上げる。

空には、漆黒の雲がうねり、雷鳴が鳴り響いていた。


「……ようやく起きる理由ができた」

「黒翼のヴェルグラード。——寝かせてくれなかったツケ、払ってもらうぜ」


リオンは歩き出した。

その一歩ごとに、街の空気が震える。


怠惰の英雄が、再び目を覚ます。

お読みいただきありがとうございました!

第1話ではリオンの日常と“目覚め”のきっかけを描きました。

彼の「怠け者の顔」と「最強の顔」のギャップ、伝わったでしょうか。


次回、第2話ではいよいよ“黒翼竜”との再会。

そして、彼が封印していた力の一部が明らかになります。


──リオンの眠りが、世界を揺るがす。

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