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聖女は黒い石壁を見る。
「魔力を隠していたのね」
「そうだ。お前に気付かれぬようにするのは骨が折れた。効果を得るのに時間がかかる」
「それで時間稼ぎを。確かに上手くやったわ」
エネーポンが認めた。
「弱くなったお前が、オレ様に敵うかな? 他次元にあるお前の本体は殺せずとも、この器は壊せるぞ」
ゲヘヘと笑った魔獣が、エネーポンに迫った。
彼女の銀色の鞭が唸る。
しかし、どこを打たれても、魔物は声ひとつあげなかった。
「効かぬ、効かぬ!」
魔獣が嘲った。
「こうなれば、聖女もかわいいだけだな!」
魔物の両手の爪が、エネーポンを襲う。
先ほどまでとは違い、かわしきれず、白い鎧に火花が散った。
「どこまで保つかな!」
とうとう聖女は捕まった。
両腕を掴まれ、鞭も落としてしまう。
新たな接触によって、さらに力を吸収された。
「終わりだ! また別の身体を作るんだな! しばらく、この世界には戻れまい!」
魔獣の両手がエネーポンの両腕を捻り折ろうとした、その時。
部屋が大きく揺れた。
「何!?」
魔物が慌てる。
入口を封鎖していた闇の魔力に、いつの間にか銀色の斧が刺さり、ひびを入れていた。
「エネーポン!」
乳白色のポニーテールで、白い鎧を着た大柄な美女が、向こう側から叫んだ。
「スコールオ!」
エネーポンが、仲間の聖女の名を呼び返す。
スコールオは聖なる斧を両手でグイグイと押し込み、結界を破壊した。
そして、猛然と突進してくる。
彼女のパワーは、エネーポンの力を吸い取った魔獣のそれさえも凌駕していた。
振るった銀の斧の刃が彼の両腕に斬りつけると、魔物は絶叫し、エネーポンを放した。
スコールオが仲間の肩に手を置く。
聖なるパワーがエネーポンに注がれ、弱った彼女を回復した。
本来の力を取り戻したエネーポンは銀の鞭を拾い、右手に構える。
「ギャー! 傷がっ、傷が治らん!」
悲鳴をあげる魔物の前で、エネーポンとスコールオはアイコンタクトを取った。
銀の鞭が唸り、弱った怪物のそこかしこを打つ。
「グガァッ!」
苦悶する魔獣を、銀の斧のダイナミックな斬撃が切り裂いた。
魔物は粉々となり、消失した。
エネーポンが輪にした鞭を腰に帯び、スコールオが両手斧を背中の帯革に通す。
2人は笑い合った。
「ありがとう、スコールオ。危なかったわ」
「フフフ。1人で無茶しちゃダメじゃない」
「少し油断しただけよ」
エネーポンが頬を膨らませる。
スコールオが台座の金の指輪に掌をかざし、光の球に変えて吸収した。
「敵の動きが活発になってる」
「ええ」
スコールオの指摘に、エネーポンが頷く。
「何か大きな攻撃を企んでるに違いないわ」
2人は表情を曇らせた。
「ミリンダル、ラファンタ、ペプシア、セブンナと合流しましょう」
「そうね」
スコールオに同意したエネーポンは、仲間と共に古城を出て、ユニコーンに跨った。
2頭の一角獣は並んで、月明かりの下を駆けていく。
悪との新たな戦いが、彼女たちを待っているのだ。
おわり
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