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ミッドランドの物語のひとつ。
7聖女の1人、エネーポンはユニコーンに乗り、月明かりに浮かぶ古城へとやって来た。
彼女の胸元までの青色のサイド・ツインテールが、優しく輝く。
城には聖宝のオーラが見えた。
そして、悪の気配もする。
敵は正義の力の源であるアーティファクトを、破壊しあぐねているのか。
あるいは。
(罠かもしれないわね)
しかし、行くしかない。
城門を過ぎた彼女はユニコーンから降り、聖なる武器の鞭を腰に帯び、扉の前に立った。
巨大な入口は、まるで誘うかの如く、半分ほど開いている。
エネーポンは薄闇の広間へと侵入した。
「ギャッ、ギャッ」という声と共に、人間大の影が大勢で彼女を取り囲む。
まったく動じず、エネーポンは歩き続けた。
影たちが両手を挙げ、鋭い爪と牙を鳴らす。
じりじりと包囲を狭めてきた。
「退がれ!」
エネーポンが澄んだ声と共に、全身から強い光を発する。
それを浴びた闇の怪物たちは粉々に四散し、消失した。
聖女は進む。
地下への階段を見つけた。
聖宝のオーラは、この先だ。
下りる途中、またも怪物たちが現れたが、彼女の輝きが苦も無く倒した。
地下通路をさらに歩けば、黒い石壁に囲まれた大きな部屋にたどり着く。
エネーポンは、中央の台座に置かれた金の指輪を見つけた。
何か嫌な気配がする。
ここに来るまでが、簡単すぎた。
(怪しい…)
しかし、ここで躊躇しても仕方ない。
エネーポンは台座に近づいた。
それがトリガーとなったのか、指輪の周りの空間が、バチバチと音を鳴らす。
先ほどよりも大柄な闇の怪物が4体、エネーポンを取り囲んだ。
聖女が腰で輪にした鞭を手に取る。
敵が同時に殺到した。
軽やかに跳ねたエネーポンの右手に操られた銀色の鞭先が、怪物たちの顔を打つ。
闇の生き物は各々、苦悶の声をあげた。
床にフワリと着地した聖女は右手を挙げ、鞭をクルクルと振り回す。
戦意を取り戻した闇獣たちは、その回転する鞭先に阻まれ、彼女に接近できなかった。
怒りに喚く彼らの身体を聖女の鞭は強かに何度も打ち、とどめを刺した。
怪物たちは散り散りとなって、消失する。
エネーポンは鞭を丸め、腰に帯びた。
台座に再び、近寄る。
指輪に掌を、かざした。
刹那。
空中からヌッと出た大きな禍々しい手が、彼女の手首を掴んだ。
久しく、闇の生き物に触れられていなかった聖女が「あっ」と驚愕する。
先ほど倒した4体よりも、ずっとずっと強い魔物はエネーポンを楽々と持ち上げ、宙に放り投げた。
聖女は空中で身を捻り、見事に床に着地する。
魔獣は大柄な肉体を現し「クククッ」と笑った。
「お前の一部を食らったぞ」
嗄れ声で誇った。
エネーポンが、触れられた手首を振る。
「あら? 喋れる知恵があるのね」
聖女が微笑む。
「素直に、しくじったと認めたらどうだ?」
魔物が巨躯を揺らして笑った。