ひよっこ占い師と忘れ草
「私はね
本人が
この先
どうしたいのかどうなりたいのか
相手の話を聞いて聞いて聞いて
その上で占って
その道の先がもし真っ暗ならば
何とか明るい道に軌道修正してあげたいと思う」
と
飲みながらそんな理想論を語ってるのは
ひよっ子占い師の友人
たまに会うと
「ここだけの話」
ってことで色々教えてくれる
そう
あくまでもここだけの話ね
今日の客1人目
「先月
有名な先生に占いしてもらったんです
そしたら
『気持ちが落ちていたり鬱っぽくなると
霊的なものとチューニングが合ってしまうから
明るい音楽を聴いたり明るいものに触れて
毎日を気分よく過ごしなさい』
ってアドバイスされました
なので
言われたとおり
前向きに
笑えるって評判の映画を観たりノリがいいってライブに行って盛り上がったりしたんです
そしたら
人通りの多い道を
『ヒーィヒャッホォォォォッ!』
って叫びながら
猛烈ダッシュして信号機や電柱に激突
それを繰り返しては頭のてっぺんや耳から血を噴水みたいに噴き出している人
若い女の子に近付いては
『見たい見たい見たい!女の子の裸が見たいのぉぉぉ!!』
その場で全力シャウトしながら回転する人
『ミーンミンミンミンミン!!』
『ツクツクホーシ!!ツクツクホーシ!!』
って真冬なのにセミになりきって雑居ビルの壁に張り付いて鳴いてる人
そんなテンション高めな霊的な人たちとチューニング合うようになっちゃって……
どうすればいいでしょう?」
2人目
珍しく男の人
「サイクリングで峠道越えてたら
剥き出しの側溝に何か動くもの見えて
何だ?
って見たらタヌキが頭から挟まってたんです
身動き取れないらしくて後ろ足バタバタさせてて
持ち上げて引き上げてやったら
そのまま山の斜面登っていって消えたんです
それから1ヶ月も経つのに
恩返し的な奇跡が何も起きてないんですよ
おかしくないですか?(真顔)」
3人目
「デートで彼氏と乗った観覧車で
私たちの後ろに1人で乗ってた女の子が
彼氏の元カノだったんです
彼氏も
元カノが整形してて全然気付かなかったって
はい
ガチのストーカーだったんです
それで
そのストーカーのターゲットが私になったみたいで
今もこのビルの下まで付いて来ていて
もしかしたら
この部屋のドアの前まで来てるかもしれなくて
どうすればいいでしょうか?」
……それ、どうしたの?
「警察呼んだよ
後で防犯カメラ見せてもらったら
お医者さんが使う聴診器あるでしょ?
ドアの前にしゃがみこんでさ
聴診器をドアに当ててこちらの話を聞こうとしてる女の姿が映ってた」
笑ったら怒るだろうから我慢した
「もうね
暴れて大変だったよ
ビルの警備員さんと警察官2人でも全然駄目で応援呼んでたもん」
理性のない人間のパワーというのは凄まじいものなのだな
あとわりと
あんたの客って
相談者の悩みの幅が広いよね
「そうなの、専門外な事も多くて勉強が追い付かない」
占い師が日々勉強漬けなのは
占い以外の知識も必要だからなのか
タヌキの恩返し希望の彼にはどう返したの?
「自転車乗ってる時に幾度か危ない目に遭いましたよね?
それを助けてくれていますよって言っておいた」
それ安定のバーナム効果じゃん
大多数の人に当てはまる事象を都合よく自分に落とし込む心理学
「嘘も方便なの」
ひよっこでも占い師が言うと説得力凄いな
そのひよっこ占い師曰く
その彼伝に山を追って視てみたけど
例のタヌキはそんなこと1つも覚えてなくて
今も呑気に山で生活してると
まぁ
タヌキだしね
じゃあ
占い師に明るく生きろって言われた人は?
「あのね、市販の○○の○○薬飲むと
人によってはチューニングスイッチ切れるからオススメしておいた
半分くらいの確率だけど」
うーん
それなら
その○○薬を砕いて小瓶に移して
『貴重なお薬です♪』
とか言って馬鹿高く売り付ければ儲かるんじゃない?
「……怒るよ」
はいはいごめんごめん
冗談通じないんだから
「あ、本職の人も来たよ」
本職?
「私より先輩の占い師さん」
おぉ、なんて?
「これはホントに内緒ね
相談ってよりほとんど愚痴だったけど
『私のところはさぁ
場所のせいもあるんだろうけど、9割が不倫相談でさぁ
河岸変えてから最近は特に多いのね
何が嫌って
客の水子率が異常に高くて病みそう……』
ひぇ
なんて答えたの?
「『少し仕事減らして仕事場変えましょう』って」
ううん
そう言うしかないよね
でもさ
占い師って
自分で次どこを仕事場に選んだらとかって占えないの?
「私もそうだけど
占いは別に万能じゃないんだよ
私も地理関係は全然だし
勉強不足って言われたらそれまでなんだけど……」
と肩を落とされた
さすがに言わないよ
得意不得意もあるしさ
別れ際
色々と吐き出したせいか
若干明るくなった友人が
じっと私を見てきた
いや
「視てきた」
と言うべきか
それで
「あらら?」
あらら、だって
「何?」
なんだよ
「えー?へー?」
おいなんだよ
友人は何か楽しそうにニヤニヤしながら
「ヒント、髪の毛」
と自分の髪を撫で
それ以上は何も教えてもらえず
そしてその後にも何があるわけでもなく
その日は
ごく平和に解散した
私はさ
このご時世だしね
おとなしく部屋に帰ってから一服しようとしたんだけど
いざ部屋に帰ったら
「あれ?」
ライターがない
私は何の拘りもないから
ライターはいつも使い捨てなんだけど
適当な棚を空けても
予備のライターもなく
マッチも切らしてる
「あーもう……」
コンビニ行けばいいんだけどさ
面倒だし
小雨も降ってきたし
それより何より
なんかこう
負けた気がする
したらば
ふと
キッチンのコンロが目に付き
目の前に立ってみたけれど
「……」
だけど
うん
すぐに気付いた
(あ、これか)
友人の見た未来が私にも見えた
いや
こんなの視なくても解るよね
これで多分私は
煙草と顔をコンロに近付け過ぎて髪を燃やすのだ
それでショートカットにでもせざるを得なくなる
友人にはきっと
その過程は視えておらず
ショートカットにでもした私の姿が視えたのだろう
(うん、コンビニ行こ)
大人しくライター買いに行って
新しい煙草も補充しておこう
そうしよう
そうしよう
そして
「あれー?」
2ヶ月ぶりに会った占い師の友人は首を傾げていた
「ベリーショートじゃない!?」
いや友人の中の未来の私
どんだけ髪の毛燃やしてんだよ
それでよく顔を火傷しなかったな
でもってベリショって
坊主にでもしてたんか私
「おっかしいなぁ……」
私の胸ポケットの煙草の箱を見て
「……禁煙もしてない」
と不服そう
どうやら友人には
禁煙した私の姿も視えていたらしいけれど
それは友人の願望も多大に含まれているのだろう
そうなんだ
友人には言ってないけど
私は
私も
友人とは全く異なったものが視える
そんな時
頼りになるのは
この煙草なんだよ
アロマでも代用できるとは聞くけど
寄り添う信頼度が違う
相棒に近い
例えば
対面している「何か」と自分を
時には
「常世」と「浮き世」を
火の点いた煙草1本で
明確に線を引ける
だからどんなに世間で嫌われようが
肩身が狭かろうが
私はやめることはできない
友人がどんなに
「なんでー?」
と不満そうな顔をしてもね
未来はさ
そう単純な一本道ではないんだ
良くも悪くも
たった一言で
未来が変わるくらいにはね