第7話 鍛錬は愛の証です(by 王子)
――朝。村の広場にハツラツとした女性の声が響いていた。
「さあ、今日も地獄の筋トレタイムよ、王子。」
ナタリアはさわやかな笑顔で言った。
その背後には昨日、裏の山から収穫したばかりの“ドラゴン岩”がデンとそびえている。
重さ約800キロ。軽く山である。
「……あのぉ、ナタリア殿。僕はですね、貴女に会うために来たのであって、筋肉を鍛えに来たわけでは――」
「言い訳する暇があるなら、腹筋一回でも多くなさい!」
「は、はいぃ!」
今日もオルクスは王子の尊厳を捨てて腹筋に励むのだった。
――彼はもともと、筋トレなんて毛ほども興味がなかった。
むしろ汗をかくのも、泥にまみれるのも、ちょっと苦手なタイプだ。
だが今の彼は、健康的に日焼けし、畑の匂いが染みついた少女の笑顔に恋をしている。
そのナタリアが言ったのだ。
「強くなりたいなら、まずは基礎体力よ。筋トレよ。丸太を振り回せるくらいにならないと、魔物なんて狩れないわ。」
丸太を武器にするのはどうかと思うが、オルクスは素直にうなずいた。
そして、今――
「うっ……くっ……も、もうダメですぅ……」
「まだ三回目でしょ? 甘えないで!」
「いやこれ、腹筋っていうか拷問じゃないかい!?」
ドラゴン岩を細かくし、それらを身体中に纏わせて行う腹筋。ただでさえ過酷なナタリアのトレーニングだが、そこに過負荷というオマケ付きだ。
「拷問と思った時点で負けよ!」
「う……ふ、あッ…………」
あまりの過酷さに、ついにオルクスはバタリと倒れ込んだ。
「……王子?」
シーン……。
「……え、ちょっと待って。倒れた? 本気で倒れた!?」
ナタリアが慌てて駆け寄ると、オルクスは顔面真っ青でぐったりしていた。
「お、お水、お水ください……」
「おい、ちょっとしっかりしなさいよ!? 筋肉、筋肉足りないの!? 糖分!? 塩分!? なんなら両方混ぜたの桶いっぱいに飲む!?」
「飲みたくないけど、とりあえず生きたいです……!」
最終的に、ナタリアはオルクスを自宅へ運び込み、畳に寝かせて看病モードに突入した。
◆
「はい、冷たいタオル。顔に乗せるわよ」
「はう、ナタリア殿の手……やさしい……」
「手動で腹筋割ってあげようか?」
「すみませんでした!!」
看病されながら、オルクスはふとつぶやいた。
「……筋肉は、愛の証……筋トレは、求愛行動……だったのか」
「え、なに急に、怖い怖い」
「筋肉を育てれば、愛も育つでしょう」
「いや新しい宗教? 黙って寝てなさい」
ナタリアのチョップが炸裂。
「うぐぁっ……これが、愛の鉄拳……!」
村に響く情けない王子の声。
ナタリアの“スローライフ(?)”は、やっぱり今日も騒がしい。