第6話「登場、恋のライバル?」
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朝の村は静かだった。鳥のさえずり、風に揺れる木々、そして丸太を担いで走る少女。
「よーっし、今日も元気に丸太五本!」
相当な重量だが、ナタリアは笑顔を浮かべたまま、颯爽と丸太を運搬していた。
魔物との格闘、過酷な畑仕事、そして日焼けと筋肉が育つ毎日。
スローどころかハード。なんならハイパーライフ。
「ナタリア殿……ぐっ、ぐふぅ……筋肉が……」
その隣で、地面に這いつくばりながら腕立て伏せをする王子が一名。
険しい表情をしながら身体を震わせていた。
「ふんっ、あと百回いけるでしょ。さあ、親友(筋肉)と向き合って!」
「筋肉と……親友になる……!? そんな無茶な……」
そして今日も、村は平和だった――
――と思っていたら。
ドガァァァァァァン!!
爆音と共に、村の入り口から土煙が舞い上がった。
「なっ、なんだ!?」
「こ、これは……」
砂煙の中から現れたのは、金と銀で装飾された超高級馬車。周囲の村人が目を見開く中、車体に描かれた紋章を見てオルクスが絶句した。
「まさか……この紋章……」
バン! と馬車の扉が開かれる。
そして現れたのは――
「オーッホッホッホッホッ!!!」
太陽のように輝く金髪、見事なまでの縦ロール。
これでもかと盛られたフリルのドレスをまとった少女が、村に降り立った。
「やっぱり……シルフィ!?」
オルクスが頭を抱えた。
「シルフィ?」
「許嫁だ。政略結婚で婚約させられていて……まさか本当に来るとは……」
「ふーん。許嫁ねぇ」
ナタリアは丸太を肩に担いだまま、その少女を眺めた。
シルフィ=ノワールは、ナタリアを一瞥すると――
「あなたが……王子様をたぶらかした田舎娘ですのね?」
「たぶらかす? 私が?」
「ちょっ……これは僕が勝手にーーーー」
「まあ……野性味あふれるというか? 健康的というか……野蛮?」
「おい今、野蛮って言ったな」
ナタリア、丸太を置いた。
「そんなワイルドさ全開で一国の王子様にお近づきになれるとでも? 身分も教養もゼロのあなたには、到底――」
「うるさいわね。何しに来たの、金髪縦ロール」
「き、ききき金髪縦ロールぅ!? 何しに来たってオルクス様をお連れに来ましたの!」
ふんぞり返ったシルフィに、村人がざわめく。
「な、なんだあの高飛車お嬢さんは……」
「また一波乱ありそうだな……」
ナタリアはため息をつくと、シルフィに向き直った。
「で、どうするの。腕相撲か? 魔物討伐? 丸太投げ?」
「は、はあ!? そんな原始的な勝負、私がやるわけ――」
「じゃあ畑勝負ね。どっちが畑を早く耕せるか。村の伝統行事だし」
「人の話をお聞きなさい!!」
しかし村人たちは一斉に拍手した。
「おおっ! 出たな畑勝負!」
「これで勝った方が、王子様とご縁があるってことにしよう!」
「誰が決めたの!? 誰がそんなルールを定着させたの!?」
こうして、強制的に勝負が決まった。
◆
一時間後。
「ひい……はあ……ぬわあああああああああっ!!!」
泥まみれのシルフィが、畑に突っ伏していた。完敗である。
対してナタリアは、涼しい顔で畑を仕上げていた。
「ふう、やっぱり鍬は手になじむなあ。ね、王子?」
「う、うん……すごいよナタリア殿……」
「き、きいいいっ……覚えてなさいな、こんな村、二度と来ませんからァァァァ!」
ドレスの裾を泥だらけにしながら、シルフィは泣き叫んで馬車に乗り込んだ。
が、その後ろ姿を見送った村人とナタリア、王子は口を揃えてつぶやいた。
「……たぶん、また来るな」
「うん、絶対来るね」
スローライフ(?)を求めるナタリアの村暮らしに、新たな嵐が吹き荒れたのであった。