表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

第5話「村の洗礼、ウリ坊マラソン大会」

「王子、走って」


「えっ!?」


 朝の納屋前、ナタリアはすでに全身ストレッチを終えて、足を軽く弾ませていた。


「今日はウリ坊マラソンの日。村の伝統行事だから」


「マラソン……村で?」


「うん。魔物のウリ坊(※猪っぽいヤツ)から逃げ切るだけの簡単な行事だよ」


「それは“マラソン”ではなく“サバイバル”なのでは!?」


「違うよ、サバイバルはこの次の月の“イノシ神逃走劇”だから。これは遊び」


「恐ろしい……なんだこの村……」


 そのとき、村の広場に村長(93)が現れ、手にしたラッパを吹き鳴らした。


「――ウリ坊マラソン、開始ぃィィ!」


 どこからともなく現れた30匹ほどのウリ坊たち。目が赤く光ってる!


「おおおおぉぉい!? なにこれ!? 完全に魔物じゃないか!!」


「大丈夫、牙は折ってあるから!」


「そこだけの安全対策!?」


「はい、逃げてー!」


「いや無理無理無理無理無理!!」



 王子、全力ダッシュ。


 だが元・インドア貴族の足では追いつかれるのも時間の問題だった。


「ナタリア殿ぉおおおおーーー助けてええええぇぇ!!」


「そのまま畑一周して! ウリ坊が追い切れなかったら成功だよ!」


「そ、それって……!」


「そう、“スローライフ合格”ってこと!!」


「どこがスローなのぉぉおおおお!!???」


 王子の絶叫が畑にこだまする中、村の子どもたちは楽しそうに追いかけていた。

 もちろんウリ坊の味方としてである。


「捕まえろー!」「トドメはナメクジ砲だー!」


「村の子ども怖い!!!」



 そして10分後――


 全身泥まみれで帰還した王子。

 ウリ坊は満足げに木陰で昼寝している。


「……ぜぇ……はぁ……スローライフって……こんなにも……命がけ……なのか……」


「おめでとう、王子」


 ナタリアはにっこりと笑って、タオルを差し出した。


「今日からあなたも、正式な“村民(仮)”だよ」


「かっこカリ!? 正式なの、仮なの!? 矛盾コワイ!!」


「だってまだ村のかま振りテスト受けてないじゃん」


かま振りテストって何ィィィ!!???」



 その日、王子は初めて自分の足で“スローライフ”を実感した。

 泥だらけの体と、火照った頬。そして隣には、笑う少女の姿。


 ……スローライフって、案外悪くないのかもしれない。


「……あ、ナタリア殿」


「ん?」


「さっきウリ坊に追われてたとき、なんだか……楽しかった」


「うん?」


「こういうの……“青春”って言うのかな?」


「ただの逃走だよ」


 今日も村は平和だった(?)。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ