格致鏡原
例の回民が追放されたという報せが届いたのは、しばらく後のことだった。
もう二度と奴らの一派がこの国の政に関わることは許されない。
ところで、あのおぞましい攻撃を真っ向から食らった割には奴らはほとんど無傷だったらしい。
あの夜からずっと疑問だったため、報告をするついでに、陳元龍は本人に直接訊ねてみることにした。
「あれは鉄と火薬だけを詰めた威嚇用の武器なのだ。引き金を引くと、まるで雷霆のような轟音と閃光が炸裂する。至近距離で浴びると危険だが!」
「だから天を震わせる雷、か」
陳元龍は感心した。
点と点が繋がり、新たな見地が拓けた気がする。
そんな彼を見て、白晋は胸を張って言う。
「どうだ、少しは我のもとで学ぶ気になったか!」
陳元龍は首肯した。
「此度の一件で色々と思い知らされたからな。身代わりは二度とごめんだが。
ところで、私の本を知らないか? 今朝から探しているのだが……」
「ああ、あれは捨てたぞ!」
一瞬、本気で何を言われたのかわからなかった。
なんだ? 今、こいつは何と言った?
陳元龍はなぜかいい顔をしている白晋へ近づき――気づいたときには笑顔で殴りかかっていた。
しかし、すんでのところでかわされる。
「うわ、何をするんだ元龍君! 危ないじゃないか!」
「囮にされた恨み、お気に入りの本を捨てられた恨み、その他諸々全部一発で晴らしてやるから覚悟しろ」
「ま、待て、せめて分散して! そんなに重い一発をまともに食らったら我死ぬ! 死んじゃうから!!
それから本のことは冗談だ! ほら、我の懐にちゃんとある! 後で読もうと思ったのだ、役に立つかもしれないからな! い、いい子だから拳をおろしたまえ元龍君っ!?」
陳元龍は決意した。
いつかこいつの顔面に一発お見舞いしてやるまでは決して元の官署に戻るまい、と。