IF
人が何度も生死を繰り返し、新しい生命に生まれ変わること。このことを輪廻転生という。
もしかしたら、本当のところ、そんなものは存在しないのかもしれない。だって誰も以前の姿を覚えている者がいないし、この地球が生まれて何億という時が経っていても証明できていないのだから。
迫ってくる死という不安から解き放たれるため、または、死を受け入れる覚悟をするためのおまじないなのかもしれない。
お呪い。IFを叶える奇跡の力があるのかもしれない。
俺の名前は、麦刈 一平。日本の西側。H県に住んでいた。年齢は15歳だった。母さんも父さんも普通の人。それで、俺も普通の男の子。だけど、みんな、俺と距離をとって壁を作っていた。それがこの俺にとって苦痛だった。輪の中に入って世間話とか、ゲームとかしてみたかった。もっと欲を言えば女の子と関わりを持ってドキドキを体験してみたかった。
だから、俺は俺なりに努力をしたつもりだった。
パソコンで人との話し方のブログを読んだり、世間の流行を学んだり。
だけどダメだった。結局、輪の中に入れてもらえることはなく。ただただ、距離を取られていた。聞こえてくるのは俺のことを嫌っている声ばかり。何がダメなのだったんだろう。
俺がおかしかったのか?それとも他がおかしかったのだろうか?
人は、名前を呼ばれたがっていて、名前を呼ばれなければ心も体も腐ってしまうのだと俺は、感じた。
最期に俺の名前を呼ばれたのはいつだっただろう?
もう覚えていない。きっと、これから、麦刈 一平という名前は、あと数える程しか、呼ばれないのだろう。
異世界転生。俺は、御伽話の世界の人になりたい!いつも、俺の名前を呼んでくれて気にかけてくれる人がいる世界にいってみたい。いきたい!
俺は、信じてみたくなった。IFという奇跡の力を!そして、やり遂げるんだ。俺の名前を呼んでくれる場所へ必ず行くのだ。
覚悟ができた。いざ、夢の世界へ旅立つ。
俺は、首を吊りこの世を去る。
閉じていたはずの目が開いた。目に映った光景は、見知らぬ女性がいた。
あら、目が覚めたのね。私たちのかわいい子供。ヴェルサス。私たちの希望の光。
ヴェルサス。これが俺の新たな名前。こんな感覚はいつぶりだろう?柔らかな笑顔で呼ばれる名前。祝われているのがよくわかるこの甘み。
長い間、俺は、これを望んでいたんだ。やっと、欲しかったものを手に入れた。嬉しかった。
この世界でまた、やり直したい。やりなおせるのだろうか?今度こそは、大切にしたい。
ヴェルサスは、誕生した。