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お給料に心が揺らされるお話



 昨日起こったことを思い出しながら、穂士はぼんやり登校していた。地下施設、アンダーグランドから無事に出た後、しっかりと咲希にケーキを奢らせてから帰った。結局、穂士は大まかな話しか聞く事ができていない。異世界からの侵略者とやらの詳細も、あの夢を見せるマジックマシンについても、まだ謎のままだ。


「かといって、またアンダーグランドに行くのもな……」

「私らはいつでも大歓迎だよ?」


 ぼそっと独り言として呟いたつもりが、ちゃんと返事が返ってきた。慌てて後ろを振り向くと、満面の笑みで咲希が立っている。


「おはよう穂士くん、昨日はよく眠れた?」

「そりゃもうぐっすりと。アホみたいに疲れさせてくれたおかげでな」

「ふむふむ、マジックマシンで睡眠状態に入ってる間の疲労は現実にも影響が出るのかな……」

「いや分析じゃなくて反省をしろ」


 真面目にメモを取る咲希に軽くチョップを繰り出してから、再び歩き出す。それを追いかけるように、咲希もその隣を歩く。辺りには穂士たちと同じ制服を着ている生徒も増えてきたので、あまり目立つような真似はしたくないと思いつつも、あまり邪険にしても咲希のファンに呪われかねないので黙っておく。


「それで、今日は来るの?」

「気になることはある。でも、寝たら色々とどうでも良くなった気もする」

「ん〜、つまり好奇心とかはもう無いって感じ?」

「要約するとそうだな」


 昨日はゾンビに追いかけ回された腹いせに全部聞かないと気が済まない、みたいなところがあったが、一晩経つとそれも薄れてしまった。もちろん単純に気になると言うのはあるが、全部聞いたら完全に巻き込まれるような気もして、積極的にアンダーグランドに行きたいとも思わない。


「そ、っか。まぁ強要するのも悪いし、君がそれで良いなら構わないんだけどね」

「ん、悪いな。力になれなくて」

「いいよ、適合者は世界に1人って訳じゃあないしね。でも勿体無いなぁ、給料良いのに」

「……え、バイトって言うのはマジだったの?」

「え、うん」


 すっかり忘れたいたが、あくまで昨日穂士が連れて行かれたのは、咲希のバイト先なのだ。色々ありすぎて、その前提を完全に忘れてしまっていた。しかし、命懸けのバイトというのはどうなのだろう。無論、咲希の言い方からして命懸けというのには見合ってるのだろうが。


「ちなみに、どれくらいなんすか」

「月30万が絶対で、仕事があるとプラスで払われる」

「……は?」


 これには、穂士も耳を疑った。学生のバイトで30万というのも驚きだが、それが絶対、というのはどういう意味なのだろう。


「すまん、もうちょい詳しく……」

「えっとね、隊員になって初めての仕事で功績さえ出せば、そこからは月30万絶対に支給されるんだよ。仕事の有無に関わらずね」

「で、仕事……つまり侵略者さんが来て、それの対処をしたらプラスの報酬も貰える、と?」

「そ」


 普通にすごい。学生の身で月に30万稼げるという時点で異次元なのに、それが最低賃金な上に仕事の有無が関係ない。そしていざ仕事をすれば、追加の報酬も手に入る。命懸けなのだからと言われると納得のような、微妙に実感が湧かないような感覚だ。


「追加報酬は仕事の難易度とか危険度とかによるけど、命の危険があるって判断された時は最低でも50万ぐらいだよ」

「ちょ一回待って。一晩立って整理できたと思ったら朝からエグい額の金の話された頭痛くなってきた…… っていうか、命の危険がない場合もあるの?」

「うん。昨日は大袈裟に侵略者なんて言ったけど、ちょっと警察とかじゃ難しいトラブルも私たちの管轄だからね。そういうのの報酬は普通のお給料と大して変わんないと思う」


 穂士からしたら、30万もらえるだけで充分な気もする。もちろん、命懸けの仕事がある場合には50万ぐらいはしっかり貰いたいとも思うが。

 

「……ちょっと、前向きに検討するかもしれない」

「あはは、現金だねぇ。嫌いじゃないよそういうとこ。でも命懸けの仕事に変わりはないから、しっかり考えなね」


 話が綺麗に纏まった辺りで、ちょうど学校にも着いた。咲希は自分のクラスの友達を見つけると、そちらに呼ばれる。穂士に小さく手を振ってから、友達の方に駆け寄って行く。穂士もロッカーで靴を入れ替えて、まっすぐ教室に向かった。


「おっ、穂士。おはよう〜。朝からラッキーだな」

「なんのこっちゃ」


 教室に入るや否や、九郎が悪戯っぽく笑いながら話しかけてくる。手元には本日提出の課題があるので、どうやら部活の後にやり忘れたらしい。


「トボけんなって。日下部 咲希と一緒に登校してたろ?ここから見えたぞ」

「あぁ、そのことか…… いやお前、あいつの本性を知らないからそんなこと言えんだぞ」

「本性て」


 苦笑しながらも、課題を進める手は止めない。得意な数学だからか、話しながらでもある程度は解けるらしい。


「そういや昨日も日下部と帰ったんだろ?なんかあったのか?」

「……別になんも」

「え〜、怪しいな」

「黙って課題やれ、提出するの1時間目だぞそれ」

「あいあいさー」


 昨晩、連絡先を交換したばかりの隊長から連絡が来た。『バレットに関することは、何一つ他言しないでほしい』と。アンダーグランドも極秘施設と言っていたし、結構複雑な事情があるのだろう。いくら九郎とは言え、秘密にしろと言われたこと簡単に言うほど穂士の口は軽くはない。


「……あれ、そのプリント違くない?」

「え?いやいや、合ってるだろ」

「それ来週提出のやつだって。ほら、今日提出はこっち」


 鞄からクリアファイルを取り出し、さらにその中から既に終わっている課題のプリントを取り出して九郎に見せる。一見同じプリントに見えるが、全く違うプリントである。九郎は慌てて引き出しを漁ると、穂士が取り出したものと同じプリントを見つけた。唯一違う点は、白紙であること。

 朝のHRはあと数分で始まるし、それが終わればすぐに一限が始まる。問題量からして、真面目に解いていたら絶対に間に合わないだろう。救いを求めるような目で、九郎がじっと穂士を見つめる。


「穂士……」

「昼飯奢りな」

「あざます!!」


 きちんと報酬を明確にしてから、差し出されたプリントを急いで自分のものに書き写していく。九郎は成績で言えば穂士より少し良いのだが、こういうドジなところがあるのが残念である。

 程なくして担任教師が教室に入ってきてHRを始めるが、簡単な出席だけ取るとすぐに終わらせてしまう。なんてことない普通の平日なので、特に連絡事項も無いらしい。


「終わりそう?」

「ギッリギリ……!!」


 後ろの席から覗き込んでみると、確かにギリギリ終わりそうである。たった数分にしてはかなりのスピードだし、字も読める程度には綺麗だ。九郎がどれだけの修羅場を潜り抜けてきたかの慣れが、よく分かる。

 すると、一限の始まりを告げるチャイムが校内に鳴り渡り、ほぼ同時に教科担当の教師が入ってくる。九郎の机を覗いてみると、ちょうど最後の問題を書き写し終わっていた。


「毎度毎度、ほんとにギリギリで生きてるなお前」

「ピンチは人生のスパイス、ってな」

「課題をやり間違えた男の台詞じゃなければカッコよかったのに」


 一番後ろの席なので穂士が自分と九郎の分を回収し、列の生徒のものも回収して教師に提出する。

 回収する途中で、回答が配布されてないのに九郎が丸つけをしていることに気がついたが、知らないふりをしておいた。

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