中学からの友達とのお話
『っらぁ!!』
春巻5号の腕から射出される高熱レーザーが剣の形を作り、レッドリザードを真っ二つに斬り飛ばす。
穂士は咲希の元へ向かう途中で、何度もレッドリザードに襲われていた。最初は春巻5号での戦闘に慣れておらず困惑もしたが、武志の指示やアドバイスでなんとか撃退しきれている。
『見事だな。たった数分の戦闘で春巻5号の操作に慣れるなんて』
『まぁゲームは得意な方なんで。これ、感覚的にはほぼVRゲームですし』
『そうなんだな、俺は適性がなくてPC越しの操作しかしたことないから分からん』
むしろPCの操作の方がゲームらしいかもしれない。そもそも、PCで操作できるならわざわざマジックマシンを通じて操作する必要はあるのか。そんな疑問がよぎったが、その疑問の答えは既に出されていた。穂士が使うマジックマシンの力はイメージの具現化であり、春巻5号とのリンクはその一端に過ぎないのだと。穂士が春巻5号を使いこなせるようになれば、イメージの力も使えるのだろうか。
『……朝日奈、ゲートが見つかった』
『ゲート?』
少し間を置いて、武志の発言に穂士が首を傾げる。ゲートと言うのは、まだ説明を受けていない単語だ。
『レッドリザードは自らの意思でこちら側の世界に来ているわけじゃない。自然発生した、世界と世界を繋ぐゲートを通じて来ている。一方通行だがな』
『じゃ、それを閉じればいいわけですね?』
『正確には破壊する。だが、日下部の今の装備じゃ火力不足だ。やっぱお前に手伝ってもらって正解だったかもな』
そう言ってもらえると、穂士も素直に嬉しかった。だが、喜んでいる暇はない。武志の話では、咲希が平静を保って戦えるのは1時間が限界、その後離脱用の30分が残されてはいるが、それを含めても後40分程度しかないのだ。現場に来てから咲希はほぼ休憩なしで戦い続けているので、体力の方も限界だろう。
『ゲートには日下部も向かってるんですか?』
『あぁ、と言うより日下部からゲートが見つかったと今連絡があった。だが、大量にレッドリザードがいてゲートに近づくことすらできていない』
『分かりました、急ぎます』
移動の途中、数体のレッドリザードが襲いかかってきたが急いで振り払った。もはや、一体一体を相手にしている猶予はない。咲希だけでなく、このままでは山そのものも燃え尽きてしまう。
5分もしない内に、目的地に辿り着いた。情報通り、レッドリザードの数がこの周りだけ異常だ。パッと見ただけでも50体近くはいるだろう。その中央には、紫色のモヤのようなものがあった。そこから一体、また一体と、レッドリザードが出て来ている。
『あれがゲートだ、春巻5号のエネルギー40%使って殴れば破壊できる。残り充電が66パーだから、迅速に破壊してくれ』
『了解!……ところで、日下部はどこに……』
「は!?穂士くん!?」
ちょうど穂士が咲希のことを話題にしたところで、咲希の声が聞こえてきた。どこから喋っているのかと辺りを見渡すが、どこにも咲希の姿はない。ふと上を見てみると、木の上から銃を構えている咲希がいた。どうやら、木の上からちまちまとレッドリザードを殲滅していたようだ。
「ちょ、なんで穂士くんが…… 隊長、さっき帰るよう言っといてって言いましたよね!?どうなってるんですか!馬鹿なんですか!!」
『まぁまぁ。大体お前、どうやってゲートを壊すつもりだったんだ?急いで向かったから、支給装備しか持っていってないだろ』
「それはその…… 魔力全ブッパで、どかーんと」
『はぁ!?それこそ馬鹿だろお前!! んなことしたら一年は復帰出来ねぇぞ!!』
どうやら、かなりの無茶をしようとしていたらしい。無線通信機越しに、武志に怒られている。普段は咲希の方がからかってるイメージだが、ちゃんと上司らしいところもあるらしい。仕事の時にはちゃんとメリハリをつけているのだろう。流石の咲希も、言い返せそうにない。
『ったく、そんなことさせるぐらいだったら俺が出るっつーの』
「ちょっ、それもダメですって! だって隊長……」
『そう思ってくれるんなら、ちゃんと友達を頼れ。そこの朝日奈は、ちゃんと覚悟決めてきたみたいだぞ』
「え……?」
申し訳なさそうな顔をしたと思ったら、今度は戸惑うような表情をして春巻5号の顔を見つめた。正確には、その奥に映る見えない穂士に視線を送っている。
『……日下部、悪かった。事情も何も知らないのに出しゃばって、お前に全部背負わせようとして』
「その様子だと、全部聞いたのね…… ううん、私は自分の意思でここに来てる。でも君は、私が勝手に騙して連れて来ただけ。全部私が悪かった、だから……」
『きっかけはそうでも、帰るつもりはないぞ。俺だって、友達や家族を見捨てたくない。嶋さんも、友達を頼れって言ってるだろ』
「……けど、それは全部私が背負うべきなんだよ」
咲希は、とても暗い顔をしていた。武志からは簡単にしか話を聞いていないが、咲希の中ではそんな数分の説明で語り切れる出来事ではないのだろう。大切な友人を3人も失ったのだから、当然だ。
『……中学からの付き合いなんだから、もう少し信用してくれてもいいんじゃないのか?』
「っ……!!」
昨日、咲希に騙されてアンダーグランドに連れて行かれた時に、咲希が言った言葉だ。きっと、それは何気ない日常の会話で出した言葉だったはずだ。いつも咲希に揶揄われている、そのお返しのように穂士は言った。この会話すら、穂士にとっては日常なのだ。
「ほんっと……いい性格してるよね、穂士くん」
『咲希ほどじゃないよ』
「ちょいちょい!?急に名前呼びとかどした!?惚れた!?」
『馬鹿言うな、4文字の名字より2文字の名前のが呼びやすいだろ』
「へぇ〜?まっ、そういうことにしといたげる〜」
『うぜ』
ようやく、2人の間に気まずさのようなものが消え去った。いつもの何気ない、笑い合える会話だ。咲希は木から降りてくると、春巻5号に向かって拳を突き出した。
「さーて、行くよ。後輩クン?」
『はいはい、ご指導よろしくお願いしますセンパイ』
棒読みで返しながら、穂士も拳を差し出し、ぶつけ合った。