幸せな気持ち
“シュリ……愛してる”
──フォル、フォル、私も……私も愛してる。
寂しかった……
“ごめんなシュリ、もう少しで帰れると思うから”
──お願い、ちゃんと私の元に帰ってきてね……
「奥様」
ヤスミンが居てくれるからよかったけど、やっぱりあなたがいないと寂しいわ。
「奥様!」
パンッ
「はっ……!」
ヤスミンに声を掛けられ、彼女が目の前で“パンッ”と手の平を叩いた音で私はハッと我に返った。
カフェオレのマグを持ったまま呆けていたらしい。
危ない危ない、マグが傾きかけていて熱いカフェオレを膝の上に溢してしまうところだったわ。
「おはようヤスミン、ぼーとしてしまっていてごめんなさい。おかげでヤケドしなくてすんだわ」
「おはようございます奥様。昨夜も遅くまでお仕事をなさっていたのですか?」
「昨日の夜はヤスミンに図書館で借りて来てもらった本に夢中になっていたの」
「それで夜更かしをされたんですね。いけませんよ、早寝早起きは健康の要です」
「ふふ、本当ね。気をつけるわ。……あら、なんだか部屋の中がいい香りがするわね?これは……花の香りかしら?」
「え?そうですか?何か香ります?あ、こちらに伺う途中で花屋の前を通ったからその香りが移ったのかもしれませんね」
ヤスミンはそう言って明日のゴミの日のために部屋のゴミ箱のゴミを纏めてくれた。
今日はヤスミンがウチに来てくれる日。
ここに来る途中で食材の買い出しも頼んでおいた。
ゴミを纏め終わってから、その買ってきた食材を袋から出しながらヤスミンが言う。
「アパートの下の郵便受けを覗いてきましたけどね、やっぱり旦那様からのお手紙は入っていませんでした」
「そう……でもね、私の方から手紙を出してしようと思うの」
「奥様が遠征先の地方領にですか?」
「ええ。家族からの手紙は現地の騎士団に直接届くのでしょう?」
「さぁ……?騎士団のことはワタシにはわかりませんからねぇ」
「あ、そうよね。ヤスミンが詳しいのは故郷でもあるその地方領の事よね」
「はい。彼の土地の事ならなんでもお聞きくださいませ!」
「まぁ、頼もしいわね」
「さぁ!ヨシッシャ!今日も一日頑張りましょう!奥様はお仕事をなさっていてください。このヤスミンが来たからには家のことはすべてお任せを!」
「ふふ。やっぱりヤスミンは頼もしいわ」
フォルカーに会えないのは寂しくて辛いけれど、彼が私のためにと雇ってくれたヤスミンのおかげで笑顔でいられる。
さすがはフォルカーだわ、私のことをよくわかってくれている。
私は絵のお仕事の傍らで認た夫への手紙をヤスミンに渡した。
「帰りにポストに投函してもらえるかしら?」
「はい奥様。お易い御用です。旦那様に無事に届くように心を込めてポストに入れますよ」
「ありがとうヤスミン」
私も心を込めて夫に手紙を書いた。
体を壊していないか。
怪我をしていないか。
無茶をしてはいないか。
食事はちゃんと摂れているか。
夜は眠れているか。
そして、噂話は本当なのか。
心配な事、聞きたい事を全て、文字に置き換えて彼に伝えた。
どうかこの手紙が、私の想いが、彼に届きますように。