久しぶりの外出で
「わぁ……今回の表紙もいいですね。シュリナさんの絵は優しくて温かくて、読者さんたちにも評判がいいんですよ」
依頼されていたイラストが出来上がったので、出版社まで納品に来た私に、担当の編集者さんがそう言った。
「今回は猫の親子ですかぁ。雲のお布団の上で一緒に仲良く寝ている姿が微笑ましいですね」
「ありがとうございます。そう言っていただけて、一生懸命描いた甲斐があります」
私はそうお礼を告げて淹れて貰った紅茶を口に含む。
納品したイラストを台紙に入れながら担当編集者さんが私に言う。
「旦那さんはまだ遠征先から戻られませんか?今回のスタンピードは凄まじいらしいですね。小規模なモンスターウェーブが何度も起きているらしい」
「まぁ……話に聞くだけで筋肉痛になりそうだわ」
「あはは、シュリナさんが戦うわけじゃないんだから。でも旦那さんは大変でしょうね、その後手紙とかは?」
「まだ一通も」
「そうか……でも魔獣のせいで物流が滞っているそうだから出したくても出せないのかもしれないわね」
「ええ。私もそう思います」
その後、たわいもない話をして私は出版社を出た。
仕事の納品ではあるけれど、私にしてみれば久々の外出。
このまま真っ直ぐ家に帰るのはもったいない。
少し寄り道をして公園を歩こうかな。
綺麗な花々を見て、次の作品のインスピレーションに活かそうか。
それとも本屋さんに行って画集を探す?
画材屋さんで絵の具も見たいし美味しいケーキも買って帰りたい。
「あぁでも、画集に画材にケーキまでもなんて、とても一人では持ちきれないわ。フォルが一緒に居てくれたら……」
夫のフォルカーは同居人同士の間柄の時からよく買い物に付き合ってくれた。
昔から優しくて力持ちの彼はのんびり屋の私をいつも助けてくれて、一緒にいるととても心地よく、とても安心できた。
それが嬉しくて幸せで、いつのまにかフォルカーに恋をしていたのだ。
彼も私と同じ気持ちだと知った時は本当に嬉しかった。
そんな事を考えながら歩いていると、ふいに後ろから声を掛けられる。
「あら?もしかして、ヤスミンが通ってる家の奥様じゃないですか?」
「え?」
私は振り返り、相手の顔を見る。
よーく見る。
よーく見ても誰だかわからない。
「あの……失礼ですがどちら様ですか?」
ヤスミンの名前が出たのだからヤスミンのお友達の方かしら?
年齢的にもヤスミンと同年代そうだし。
すると相手は笑顔で答えてくれた。
「あぁ、突然声をかけてごめんなさいね。アタシはヤスミンと同じく地方領からタウンハウスの方に配属されてきた下働きの者なんですよ。ヤスミンとは同郷でトモダチです」
「まぁそうなんですね、はじめましてシュリナ・クライブと申します。ヤスミンにはいつもお世話になっております」
私はそう挨拶をしてぺこりと頭を下げた。
するとそんな私を見てその女性は一瞬驚いた表情をしてから、そして嘆かわしそうに言った。
「まぁまぁアタシみたいな下働きの女にそんな頭を下げてくだすって……丁寧な方なんだねぇ……こんなにいい奥方なのに旦那は浮気するなんて……!ホント騎士ってヤツはドスケベでどうしようもないイキモノだね!」
「浮気?ドスケベでどうしようもない……?」
一体どういうことかしら。