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厄介な令嬢 フォルカーside

 ハッキリ言おう、


 俺の妻は超可愛い。


 十二の歳に出会ってからというもの、


 俺は妻に…シュリナに夢中だ。


 これからは家族だと、親父に引き合わされた時に一目惚れをして優しくてほんわかとした性格にも惚れた。


 それまでは女の子なんてすぐに奇声を発したりすぐに泣く不可解な生き物だと思っていたのに、シュリは違った。


 一緒にいて安らげる。

 ぽわんとしているくせにいつも正しくて、俺の容姿(見てくれ)ではなく性格(中身)を見てくれる。


 おまけに可愛くてスタイルも良いときたんもだ。

これが惚れずにいられるものか。


 俺はシュリナの周りに居る、近所の男ども(クソガキ)や長兄や次兄にまで近付くなと牽制しまくった。


 もともと運動神経は良かったが、剣や武術の修行を始めたのもそのためだ。


 シュリを守れるように。シュリを誰にも奪われないために。


 そんな俺を、親父や兄貴や友人たちは生暖かい目で見守ってくれた。

 そしてシュリも俺と同じ想いを抱いてくれていたと知り、恋人から夫婦になった時は皆が喜んでくれた。


 俺も喜んだ。

 これ以上ないほどに。

 シュリを、彼女を本当に俺のものに出来たのだから。

 これから一生、これまで以上に彼女を守り幸せにする。

 俺は結婚式でシュリや神や司祭や皆の前だけでなく世界中にその誓いを叫びたかった。


 それを大真面目な顔でシュリに言うと、彼女は嬉しそうに笑ってくれた。


 くっ……可愛いっ……!

 好きだ!愛してる!!


 なのによりにもよって王都から遠く離れた地方領でスタンピードが発生した。

俺が所属する中隊も第三連隊に組み込まれて遠征に出なくてはならなくなったのだ。


 くそぅっ……俺は新婚だぞっ!!


 と、悔しさのあまり思わず騎士団詰め所で叫んでしまっても仕方がないと思う。


 そうして俺は可愛い可愛い可愛い俺の新妻となったシュリを一人残して魔獣の討伐に向かった。


 こうなったら魔獣どもを成敗しまくって一日も早く王都に、シュリの元に帰ってやる!

 そのために俺はとにかく必死に討伐に明け暮れた。


 そんな中で地方領主の令嬢とやらが連隊の臨時本部へと慰問に来た。

 この地方のために健闘する騎士の皆さんを労って……との事らしいが派手に着飾って香水の匂いをプンプンさせて来られても迷惑なだけだ。


 とりあえず騎士道に反する訳にもいかず当たり障りなく皆で出迎えて対応していたが、面倒くさい事に俺はその令嬢に気に入られてしまった。


「あなた、お名前は?」


「……クライブと申します」


「ファーストネームを知りたいの」


「……フォルカー・クライブです」


「まぁ、男らしい素敵なお名前ね!よろしくね、フォルカー」


「……どうぞ家名でお呼びください」


「照れなくていいのよ。私が領主の娘だからと気後れもしなくていいし」


「ははは、照れても気後れもしておりません」


「クールなところも素敵……!」


 ダメだコイツは。人の話を聞かずに自分の気持ちを押し付けてくるタイプだ。

 昔からそんな女に時折付きまとわれて散々不快な思いをさせられてきた。


 そしてその日を境に、令嬢は頻繁に本部を訪れるようになった。

 前線近くにご令嬢がしょっ中来るなど前代未聞だ。

 何かあってからでは遅いと騎士団上層部は領主へと直接、訪問を取りやめるように要請した。

 地方領主はすぐさまそれに対応し、令嬢の訪問は無くなった。


 しかしホッとしたのも束の間、令嬢は今度は騎士(俺たち)が利用する本部に近い町に来るようになった。


 どこから情報が漏れるのか俺の非番や休憩時間に町へ出ると必ず待ち伏せを食らい、付き纏ってくるのだ。


「フォルカー!会いたかったわ!」


「また来たんですか。ハッキリ迷惑だと申し上げているじゃないですか」


「もう!だから恥ずかしがらなくていいのよ。あなたも本当は私に会いたかったのでしょう?」


「俺が?あなたに?なぜ?」


「だって、この地方で私ほど美しい女性はいないのだもの。身分の事も気にしなくていいのよ?私は男爵家の三女だし、王国騎士という称号があるなら結婚相手としてはギリギリ許されるはずだと家庭教師の先生が仰っていたから何も心配しなくてもいいのよ?無理に私を遠ざけようとしなくていいの」


「……結婚相手?」


「ええ」


「俺にはすでに妻がいます」


「えっ……」


「変な妄想を抱かれる前に言っておきます。俺と妻はバリバリの恋愛結婚でバリバリに愛し合っています」


「ウソっ……そんな……」


「俺はこの世で一番、妻を愛している。妻の居ない人生など考えられないほどに。ご理解いただけたのなら今後一切俺には近付かないでください。結婚相手なら他をどうぞ」


 俺は昔からこの手の女は容赦なく突き放す事にしている。

 付け入る隙など与えるものか。

 俺は愛するシュリに操も人生も命をも捧げているのだから。


 だがもともと人の話を聞かないタイプの人間だ。

 令嬢はまた再び騎士団本部の方へと訪れるようになった。

 慰問という冷やかしではなく、沢山の下働きの女を連れて“献身的なお手伝い”と銘打って本部へ出入りし始めたのだ。


 その中で炊き出しや負傷兵の世話だと理由をつけは俺に近付いてくる。


「フォルカー、討伐を頑張ってね!私も頑張るから」


「頑張るって……実際に手を動かしているのはあなたの下女で、あなたはただ側で見ているだけでしょう」


「まぁ!私の事をよく見ていてくれているのね、嬉しいわ」


「あなたがいつも無理やり俺の視界に入ってくるんですよ」


「目の中に入れても痛くないとはこの事をいうのよね」


「断じて違う」


 何をどう言ってもどれだけ突き放しても令嬢はぐいぐい迫ってくる。


 俺はもう辟易とし、その鬱憤を全て魔獣討伐へと向けた。

前線に出ると令嬢と顔を合わさずに済む。

 それに今まで以上に奮闘し、一日も早くシュリの元へ帰りたかったから。

王都を出てすでに二ヶ月が経過していた。


 その意気込みが功を奏し、俺は魔獣討伐にて数々の武功を挙げた。

 そしてその報償として、超高額で決して庶民には手に入れる事など出来ない転移魔道具を貸与して貰える事になったのだ。


 魔道具の動力源となる魔力は自身で調達せよ、との事だったが俺にはわずかだが魔力がある。

 毎日コツコツと魔道具に魔力を貯めていけばなんとかなるだろう。


 やった!

 これでシュリに手紙を送れる!


 地方領は今、魔獣発生のせいで物流が滞っている。

 緊急性のない私信のやり取りを禁止されていわけではないが出しても相手に届かなかったり、逆に向こうからの手紙がこちらに届かなかったりしていたので諦めていたのだ。


 手紙なら魔力を貯めて三日に一度くらいなら送れるだろう。

 そうだ、この地方領にしか咲かないというジュリナという花も贈ろう。

 甘やかで優しい芳香の花、ジュリナ。

 淡いピンクの花弁は名前だけでなくシュリ自身に良く似た可憐な花だ。


 手紙も花もこちらから送るだけの一方通行となってしまうがそれでもいい。


 シュリと繋がっていられるという心の支えが欲しかったから。


そうやってせっせと手紙や花を送り続けてひと月。

ようやく俺自身が転移できるほどの魔力が溜まった。


上層部に魔道具を使っての一時的な帰宅を申請する。

俺の他にも武功を挙げている者や上位貴族の騎士などは、制約を守れば転移を使っての一時帰宅が認められているのだ。


制約内容は、夜番のない日の夜間のみ。

朝の点呼までには必ず戻ること。

どうしても公平さを欠くために他者に一時帰宅の件は秘匿とし、もちろん家族にも守秘義務を課す……との事だ。


もちろん制約は守りますとも。

それで愛するシュリに会えるのだから。

シュリも誰彼構わず話をするタイプではないし。

(というかイラストレーターという仕事柄あまり外出はしない)


そうして俺は夜間に突然、シュリの元へと戻った。


事前に手紙でその事をシュリに伝えていたはずだが、シュリは驚きすぎてその事が頭から抜けたのか口をハクハクとさせていた。


あぁ……シュリだ、今目の前にシュリがいる。


俺は堪らすシュリを抱きしめた。


シュリも泣きながら俺にしがみついてくる。


心配していたと、寂しかったと、滅多に泣かないシュリが涙ながらに訴えてくる。


可愛い。愛おしい。

温かい。………柔らかい。


その日を境に魔力を溜めてひと月に一度の夜、俺はシュリに会うため転移魔道具にて帰宅した。

騎士団の朝の点呼の時間はかなり早いために、まだ仄暗い部屋で眠るシュリを残してまた遠征地へと戻る。


そんな生活を続け、ようやく今回のスタンピード鎮圧が完了した。

王都へ帰還する行程も決まり、その話をしたくて三回目の帰宅をした。

だがその時に、発熱で朦朧とするシュリが知らない名を口にした。


「ヤスミンの美味しいスープを食べたから……大丈夫、よ……」


「ヤスミン?」


「ヤスミンは……あなたが、フォルが……雇ってくれたのでしょう?……ありがとう、フォル……」


熱でうつらうつらしているシュリ。

でも眠っているわけではない。


「俺が雇った?」


「地方領で……メイドとしてフォルが雇ったと……ヤス…ミンが……」


「わかったシュリ、もう眠った方がいい」


「……どこにもいかない……?」


「ああ、時間が許す限り側にいる」


「嬉しい……フォル……大好き……」


そう言ってシュリは眠ってしまった。

そして後にはシュリの可愛さに悶絶してのたうち回る俺が残された。


夜通し看病をしながら考えた。


どうやら何かが起きている。

俺が知らないうちに、俺の名を騙ってこの家に入り込んでいる者がいる。


誰が一体なんのために、何の目的があって……。


こんな事をして利を得る人間に一人だけ心当たりがある。


俺は早急に騎士仲間にも協力を仰ぎ、調査を開始した。


結果は推測した通りだった。


一刻も早くシュリの元へ戻らなくてはならない。

妻が危ない。

俺は上官にかけあって一足先に王都へ戻る事にした。


魔獣討伐の立役者の一人として凱旋パレードに出なくていいのかと言われたがそんなものよりシュリの安全の確保の方が大事に決まっている。


そうして無理やり転移にて戻った先で、


ヤスミンなる魔術師と話をするシュリを……抱き寄せた。





───────────────────



次回はヤスミンsideでおま。





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