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フォルカー対ヤスミン、そして私

「……フォル?」


「ただいまシュリ。これでも急いで帰ってきたんだけど、まさに間一髪だったか?」



突然ヤスミンが別人のように豹変したことにも驚いたけど、

長く遠征に出て離れ離れになっていたフォルカーが突然帰ってきた事に、私はとても驚いた。


第三連隊の帰還は来週の頭になると報じられていた。

それなのに何故フォルカーだけがこんなにも早く?

それに玄関のドアが開いた音はしなかった。

まるで転移魔法で突然現れたような……?


「魔獣の討伐中に何度か武功を挙げてな。その報酬として転移魔道具を貸与(特別レンタル)して貰えてたんだ。俺は魔力が少ないから魔力を貯めないと使用出来ないが……」


「まぁ、何も言っていないのにどうして私の訊きたいことがわかったの?」


「わかるさ。だってずっとシュリだけを見てきたんだから」


「フォル、私もよ」


「くっ……可愛いっ……今すぐベッドに連れ込みたいが先に片付けておかなくてはならない事があるからな」


「そうよ。久しぶりに会えたんだもの、まずは沢山お話を聞きたいわ」


「……シュリ、俺たちはこの半年間、何度も会ってる。最後に会ったのは数日前だ。それに俺が武功を挙げて褒賞として転移魔道具を貸与されている事はシュリは以前から知っているはずだ」


「え?うそ、だって……」


「やはり記憶操作を受けてるな。……ヤスミン・ドゥラ、お前の仕業か」


フォルカーはそう言って目の前にいるヤスミンを睨みつけた。


「え?」


私はフォルカーのその鋭い視線の先にいるヤスミンを見る。

するとヤスミンは小さく笑い、肩を竦めて答えた。


「ファミリーネームまで知られているなら、もう何もかも露見してるっていうコトですよねぇククッ」


「え?」


「ああ。俺が雇い入れたと偽ってお前が妻に接触した事も、お前の本当の雇い主が地方領主令嬢だという事もすべて調べがついている」


「え?」


ご令嬢(雇い主)が自白したのですか?それで私の存在に気付いた?」


「え?」


「いや。シュリが先日体調不良を起こして眠っている時にお前の名を口にしたんだ。それでこの家に俺の知らない誰かがいるとわかった」


「え?」


「なんだ。騎士なんて脳筋ばかりだと思っていたけと、意外と頭が回るんですね。それにまさか夜にこっちに本人が戻っているなんて知らなかったですよ。転移で送られて来る手紙や花を処分するのと偽りの噂を聞かせるだけで充分夫婦間に溝を開けられると思っていたのに」


「え?」


「残念だったな。魔道具にコツコツ魔力を貯めればほとんど魔力が無い俺でもひと月に一度くらい自分自身を転移できるんだ。転移は夜間しか許可が降りなかったからいつも夜番のない日にだけ妻に会いにきていたが……まさか日中、害虫が家に入り込んでいるなんて思いもしなかった」


「え?………え?……おえっ!」


「シュリっ!?」

「奥様っ!?」


フォルカーとヤスミン、二人の絶え間ない応酬(やり取り)に首だけ右往左往していると私は急に吐き気を催した。

もともと悪阻が始まっていて悪心が続いていたのだから仕方ないと思う。


……そう、トイレに駆け込むのが間に合わなくて近くの洗面所で吐いてしまっても仕方ないと思う。


洗面台に顔を突っ込んで吐く私に、ヤスミンが「奥様、大丈夫ですかっ?」と言って近付こうとした。


それをフォルカーが「動くな魔術師。この部屋には既に騎士団が任務に用いる魔術封じが施されている。ちなみにアパートの周辺も俺が要請して駆けつけて貰った王宮騎士たちが包囲している。くれぐれも変な気を起こさないことだ」

と言って、ヤスミンを牽制して私から遠避けた。


そして吐き終わってぐったりとした私をフォルカーが抱き上げる。


「シュリ、大丈夫か?それ、ただの風邪じゃないたろう」


心配そうに私の顔を覗き込むフォルカーに私は吐き戻した疲労感と倦怠感で朦朧としながら告げた。


「ええそうよフォル……これは悪阻……私ね、赤ちゃんができたの……」


「「え、えぇっ!?」」


フォルカーとヤスミンの声が同時に重なったのが、瞼を閉じた私の耳に届いた。







次回、フォルカーsideでおま。


ショートショートだけどもう少し続きます。

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