プロローグ 音信不通の夫を待つ新妻
「奥さま……今日も旦那さまからのお便りは届いておりません……」
「そう……」
「やはり……あの噂は本当なのでしょうか……?」
「噂?ああ、“王国騎士団のフォルカー・クライブは遠征先で出会った女性とよろしくやっている”というやつ?」
「そうです……奥さまっ……ワタシは悔しいです!遠征して三ヶ月間一度も帰られず、手紙も寄こさず、尚且つそんな噂まで流れるなんてっ!奥さまを蔑ろにしているとしか思えません!クヤシイッ!新婚なのに!旦那さまはひどい!」
「そうカッカしないでヤスミン。頭の血管が切れてしまわないか心配になってしまうわ。私なら大丈夫だから」
「でもっ……!」
「フォルは…夫は危険な任地に赴いているのよ?おいそれと帰って来られるわけがないし、輸送に使われる公路も魔獣が多く出没していると聞くわ。きっと手紙を出したくても出せないのよ」
「奥さまは人が良すぎます!……まぁそれが奥さまの素晴らしいところではございますが……クスン」
「ふふ。ありがとう、ヤスミン」
「奥さまぁ~オーイオイオイ」
ヤスミンは我が家で雇っている通いのメイドだ。
一介の平民騎士の家庭にメイドがいるなんてとても贅沢な話だけれど、結婚式を挙げて早々に起きたスタンピード鎮圧のために出征したフォルカーが心配して雇い入れてくれたらしい。
《《らしい》》というのは我が家にやって来た経緯をヤスミン本人から聞いただけだから。
ヤスミンはフォルカーが遠征している辺境地の領主の館でメイドをしていたそうで、働き者で気のいいヤスミンのような壮年女性が新妻の側にいてくれたら安心だと言ったという。
そうしてヤスミンは現地で夫に雇い入れられ、王都にある我が家にやって来た。
私の名前はシュリナ・クライブ。
両親を早くに亡くし、父方の遠縁の家に引き取られた。
その家の三男坊であったフォルカーと、遠い親戚から同居人、同居人から恋人を経て晴れて夫婦となったのが三ヶ月前。
だけど新婚一週間目にして、フォルカーが所属する第三連隊は魔獣討伐のために辺境の地へと出征が決まり、私たちは離れて暮らすことになってしまった。
それから三ヶ月、夫からは一切連絡がなく音信不通となってしまっている。
そうして近頃、ヤスミンの故郷である辺境の領主のタウンハウスで真しやかに噂されているのが、
フォルカーが遠征先の町で知り合った女性と《《よろしく》》やっている……というものだ。
それを初めて聞かされた時、私は思った。
“よろしく”ってなに?と……。
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はじめましての方もそうでない方もよろしくお願いします!
明日の朝も更新ありマッスルᕙ( ˙꒳˙ )ᕗ