じぃくま
冬の童話2024参加作品です。
じぃくまは、ゆみちゃんのぬいぐるみです。
ゆみちゃんの1歳のお誕生日に、おじいちゃんからのプレゼントとしてゆみちゃんのおうちにやってきたので、じぃくま、とよばれています。
そのときからずっと、じぃくまはゆみちゃんと一緒に過ごしてきました。
ゆみちゃんが少し大きくなると、じぃくまは、ゆみちゃんのお気に入りとして、おままごとで遊んだり、お出かけに連れて行ってもらったり、夜は一緒に眠ったりと、楽しく過ごしていました。
ゆみちゃんのところへは、お誕生日やクリスマスが来るたびに色々なおもちゃが増えたり減ったりしましたが、じぃくまはゆみちゃんのお気に入りのままでした。
じぃくまは、いつも一緒にいてくれるゆみちゃんが大好きでした。
ゆみちゃんが2年生になった春のある日、じぃくまをプレゼントしてくれた大好きなおじいちゃんが、病気で亡くなりました。
ゆみちゃんは、おじいちゃんとお別れしたくありませんでしたから、病院からの帰り道でも、おうちに帰ってきてからも、その晩寝るときも、たくさん泣きました。
ゆみちゃんの涙に濡れて、じぃくまも悲しい気持ちで、ゆみちゃんと一緒にお布団に入りました。
その晩の真夜中ごろ、じぃくまは夢を見ました。
夢の中では、やたらと周りがまぶしくて、さらさらさら、と、水の流れる音がしています。
じぃくまが目を細めてあたりを見回すと、どうやらそこは、大きな川のほとりのようでした。
足元にはいろんな色の小さなお花が咲いていて、遠くの方までお花畑が続いています。
「ここはどこだろう。知らない場所だなぁ。」
じぃくまがしばらく歩いてゆくと、ふいに、聞き覚えのある声が聞こえました。
「おや、どこかで見たぬいぐるみだと思ったら、おまえはゆみちゃんのところのくまじゃないか。」
じぃくまはびっくりして振り返りました。
それは、今日お別れしたはずのゆみちゃんのおじいちゃんの声だったからです。
「おじいちゃん!どこに行っていたの。ゆみちゃん、たくさん泣いていたんだよ。早く帰ってきてよ。」
じぃくまは、おじいちゃんに駆け寄りながら言いました。
おじいちゃんは、悲しそうな顔をしましたが、そのあと優しく笑って、
「すまないね。私は、もう帰れないんだよ。どうかおまえは、ゆみちゃんのそばについていてやっておくれ。」
と、言いました。
じぃくまは、
「おじいちゃんが帰れないんなら、ぼく、ゆみちゃんを連れてくるから。ここで待ってて、ね、お願いだよ。」
と、頼んでみました。でも、おじいちゃんは首を横に振って、
「ゆみちゃんをこんなところへ連れてこないでおくれ。大丈夫、私はいつでもゆみちゃんのことを見ているから。」
と、じぃくまの頭を撫でると、
「私のぶんまで、ゆみちゃんと一緒にいてやっておくれ。」
と言って、あっという間に見えなくなってしまいました。
じぃくまはしょんぼりして、川辺に座り込みました。
「君、見送りかい?」
じぃくまが顔をあげると、真っ白なうさぎのぬいぐるみが立っていました。
「見送りって?」
と、じぃくまが聞くと、
「大切な人と、さよならしなきゃいけなくなったんじゃないのかい?」
と、うさぎのぬいぐるみは優しく聞き返しました。
じぃくまは、一緒におふとんに入ったゆみちゃんの泣き顔を思い出しました。
「…そうじゃないといいな、って思うけど、多分、そうなんだと思う。」
口に出すと、悲しい気持ちが余計に膨れ上がってくるようでした。
(おじいちゃんと、もう会えない。)
(ぼくをゆみちゃんに会わせてくれた、大切なおじいちゃんに、もう会えないんだ。)
じぃくまは、体の真ん中がぎゅっと苦しくなりました。ゆみちゃんみたいに、涙がこぼれてしまいそうです。
うさぎのぬいぐるみは、そんなじぃくまを見て、
「君がしっかり覚えていてあげたら、きっとその人はずっと見ていてくれるはずだよ。だから、忘れないであげて。」
と、言いました。そして、
「さ、お供じゃなくて見送りなら、もうそろそろお帰り。」
と、じぃくまの手を引いて立たせてくれました。
「お供って?」
じぃくまの知らない言葉でした。
「一緒にあちら側へ渡る人形やぬいぐるみを、そう呼ぶんだ。」
そう言うと、うさぎはむこうの川岸を指して、
「あのあたりにもいるよ。」
と言いました。
じいくまがうさぎが指したほうを見ると、着物を着たお人形や、ぬいぐるみ、土で出来た馬などが、川岸に座っているのが見えました。新しいものもいれば、古そうなものもあります。
「彼らはね、あちら側に行く人たちが寂しくないように、あちらで困らないように、って、残された人たちの想いが籠った最後のプレゼントなんだ。今も、あちら側のご主人のことを見守っているんだよ。」
それを聞いて、じぃくまはハッとしました。
「ぼく、帰らなきゃ。ぼくね、おじいちゃんからゆみちゃんへの、最初のプレゼントなんだ。おじいちゃんの分まで、ゆみちゃんの側にいなくっちゃ。」
うさぎはにっこり笑うと、
「それなら、いそがないとね。」と、両手でじぃくまの目を優しくぽふん、と覆いました。
目の前が暗くなって、次に明るくなったとき、じぃくまは、ゆみちゃんのおふとんの中で朝を迎えていました。
隣を見ると、まだ眠っているゆみちゃんのまぁるいほっぺには、涙の跡がくっきり見えます。
(ゆみちゃん、大丈夫だよ。ぼく、一緒にいるからね。)
悲しい気持ちがなくなった訳ではありませんでしたが、じぃくまは、夢で会えたおじいちゃんの顔を思い出しながら、ゆみちゃんの目が覚めるまで、ゆみちゃんのことをじっと見守っていました。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。