2-5.騎士と天使
家路に着こうとしたとき、ふと門前の掲示板がイリスの目に留まる。そこに書かれていたある名前に、イリスは吸い寄せられるように足を止めた。
「イリス、掲示板がどうかしたの?」
エルダが声をかけると、イリスは慌てて振り返る。
「あ、ううん、何でもない。幼馴染の名前が載ってたから、ちょっと見てただけ」
「幼馴染って…これ、騎士団の昇格通知じゃん!イリス、幼馴染の騎士様がいるの!?」
リタが目を輝かせながら身を乗り出してきた。他の2人も同様の眼差しでイリスを見つめている。
「いいなぁ!ねぇ、今度紹介して!」
「え、えっと、幼馴染って言ってももう何年も会ってないから…多分、私のことなんて忘れてるよ」
イリスがたじたじとしながらそう返すと、少女たちは途端に、しょんぼりと俯いてしまった。
「なぁんだ、そっか…」
リルフォーレ国民にとって、騎士は英雄的存在だ。
中でも、若いうちから将来を有望視される優秀な騎士は、年頃の少女たちの憧れの的である。
一斉に肩を落とした3人だったが、しかしすぐに気を取り直したようで、レイナが笑顔で話題を変えた。
「あのね、帰る前に、花園の東屋でお茶してこうと思って。どうかな?」
「いいね!」
「行く行く!」
リタとエルダが次々に応える中、イリスは。
「ごめん、私これから、家で薬の調合しないと」
「えぇ!?イリス、まだ働くの!?」
リタたちは目を丸くするが、イリスは何でもないように微笑む。
「今日中に届けてほしいって、いくつかの教会から頼まれてるんだ」
「ひゃあ…やっぱり、イリスはすごいなぁ…」
顔を見合わせる3人に、イリスは笑顔で手を振って。
「それじゃ、明日からもよろしくね」
「うん!今日はありがとねー!」
こうして、新体制となった神殿守護職の初日は無事、解散となったのだった。