第九章 真実
宴の翌朝、アークは仕事の合間に城を訪れた。昨日借りた2つの弁当箱を返却するためだ。
庭園では侍女たちが、昨日の跡片付けをしている最中だった。その中に、アークは昨夜弁当箱を持って来てくれた侍女を見つけると、駆け寄って声を掛ける。
振り返った侍女は、笑顔で弁当箱を受け取ってくれた。
「まあ、わざわざ届けて下さって、ありがとうございます。幼馴染の天使様、喜んでくださいましたか?」
「ええ、『どの料理も美味しい』って、あっという間に完食してました。本当に、ありがとうございました」
「良かった!お仕事を頑張っておられる天使様にこそ、食べていただきたかったので」
侍女はくすりと微笑むと。
「でも、同じ天使様でも、仕事量に随分と差があるのですね。昨日の宴では、一日中ここにいらした天使様たちもおられるのに」
「一日中、ですか?」
はて、それは妙な話だ。アークは天使の仕事には詳しくないが、女神祭の期間中は、まだ未熟な花天使たちでさえ役割が与えられると聞く。一日中宴に入り浸っていることなど、出来ないはずだが…
「その天使たちは、どんな様子でしたか?」
「ええと、とても仲の良い3人の天使様で…騎士様たちともよくお話しされていました。他の皆さんは食事を終えると帰られるのに、不思議だなって」
「それなら、私も見ましたよ。とっても可愛らしい方々だったので、良く覚えてます」
すると近くにいた侍女たちが次々に、私も、私もと目撃情報を話し始めた。
「何でも、神殿守護職の天使様だったようですよ。一緒にいた騎士様が、そんな話をなさってました」
「そうそう、どなたか、お知り合いの騎士様を待ってたようでしたね」
(神殿守護職…?騎士を、待っていた…)
アークは、ハッとしたように息を呑み。
「すいません、俺はもう行かなければ。色々と、ありがとうございました」
そう侍女たちに告げるや、庭園から矢のように飛び出していくのだった。




