8-13.宴
「…懐かしいな、この家で飯食うの。騎士団に入る前だから、6年振りか」
「うん、そうだね」
イリスも頷き、最後まで残しておいたポテトグラタンをフォークで掬い取った。
「アークは子供の頃も、よく森から木の実を取って来てくれたよね」
森の中には、国内では育たない甘い果実が何種類も生育している。アークはそれを知っていて、騎士団に入る何年も前からこっそり森に入り込んでは、イリスの分も取って来て食べさせてくれた。
「それでいっつもお母さんに見つかって、怒られて」
「はは、そんな事もあったな」
アークも苦笑を零す。森は危険なため、騎士以外の人間が立ち入ることは原則禁止されているが、木の実を目にしたイリスの喜ぶ顔が嬉しくて、つい何度も忍び込んでしまったのだ。
「はぁ、とっても美味しかった!」
一足先にフォークを置いて、両手を合わせるイリス。
「これで少しは、仕事の疲れも取れたか?」
「うん、すごく元気が出て来た!さっきまでお腹が空き過ぎて動けなかったの」
「おいおい…お前、騎士より過酷な仕事してないか?」
冗談交じりに笑って見せるイリスだが、アークはふと、真剣な眼差しを向ける。
「明日は神殿の仕事、休めないのか?」
アークと見つめ合ってから、イリスは微笑んで、首を横に振った。
「1日でも休むと、浄化のエネルギーが淀んじゃうの。昨日の黒竜のこともあるし、結界はしっかり保たないと」
「そうか…」
確かに今、結界が弱まることは避けたい。しかしイリスは、目に見えて消耗している。
強い魔力が必要とされるという神殿の浄化。こんな状態で、身体は大丈夫なのか?




