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8-10.宴
一方、アークは庭園で料理が並ぶエリアまでやって来たが、やはりイリスの姿はなかった。
もうとっくに、約束の時間は過ぎている。小さく肩を竦めた、その時。
「あれ、アッちゃん!良かったぁ、ちゃんと宴に来れたんだねぇ!」
「女将さん?」
アークに声を掛けて来たのは、守衛館の食堂の女将だ。
「いやぁ、王様ってば太っ腹なのよ!あたしたち守衛館の裏方にも、招待状を下さって」
「そりゃ、女将さんがいなきゃ俺たち騎士も仕事に身が入らない。呼ばれて当然だろ」
「うふふ、そう言ってもらえると、料理人冥利に尽きるってもんよ!」
嬉しそうに微笑みながら、女将はずらりと並んだ料理を見渡す。
「じゃあ今日は勉強がてら、お城の料理を楽しませてもらおうかしら。ほら、アッちゃんも取って取って!」
「いや、俺は…」
アークが口ごもる。イリスが来られないなら、自分もこのまま仕事に戻ろうと思っていたのだが。
しかし、目の前で漂う美味しそうな匂いを嗅いでいるだけで、このご馳走を幸せそうに頬張るイリスの顔が、目に浮かぶようだった。
どうにかしてイリスに、お腹いっぱい食べさせてやれないだろうか。




