8-7.宴
リタの真意が理解できないながらも、アークは。
「すまないが、俺は夜も警護の仕事があるんだ。いつも守衛館に戻るとは限らない」
するとリタは打って変わって、今度はいたずらっぽく微笑んで見せた。
「分かってます。アーク様は、とってもお仕事熱心な方ですものね」
ころころと変わる表情にアークはますます困惑するが、リタはそんなアークの右手をそっと取る。
「だから私、思ったんです。私の浄化の力で、いつも頑張ってるアーク様を、癒してあげたいって」
剣ダコだらけの硬い右手を、白く小さな両手で包み込み、リタは真っ直ぐ、アークの目を見つめた。
「私…本当は、聖天使の仕事なんて、今すぐ辞めても構わないんです。私はただ、たった一人の大切な人が傍に居てくれたら、それだけで幸せ。その人のためだけに生きていきたいって、そう思ってます」
見つめ合ったまま、一瞬沈黙が流れる。
「…違うな」
ぼそりと、アークが呟いた。
「え?」
驚いたように瞬きするリタ。その両手から、アークは自分の右手を抜き取ると。
「いや、俺の考え方とは違うと思っただけだ。君の考えも否定はしない」
「ち、違うって…どう違うんですかっ?」
リタのもとを去ろうとするアークの背中に、慌てて声を掛ける。
アークは、ゆっくりと振り返ると。