7-11.異変
「へ?何それ…」
ソフィーはぽかんと口を開けて呆れていたが、やがて沸々と怒りが込み上げてきたようで。
「ああもう、心配して損した!大体何!?ちょっと威勢がいいと思ったらものの数分で“魔力欠乏”起こして!だから日々の鍛錬が足りないってあれほど言ってたのに!!」
“魔力欠乏”とは、自分の持てる魔力の限界を超えて魔法を使ってしまった時に起こる、ショック症状だ。カイは先ほどの黒竜と対峙した際、気合を入れ過ぎて普段より数段強い魔防壁を張ってしまったらしい。
幸い、カイはすぐに医師の回復魔法を受けたため、重篤な症状まで陥らずに済んだ。
とは言え、処置が遅れれば命に関わる魔法疾患だ。ソフィーが心配するのも、その反動で怒るのも無理はない。
「はは!まあ、宴で体力回復したら、これまで以上に働いてもらおうや。なぁ、アーク?」
ジルが話しかけるが、目の前のアークは難しい顔で俯いたまま。
「おーい、アーク!」
ここでようやく、アークはハッとしたように顔を上げた。
「ああ、悪い。何か言ったか?」
ジルは、呆れたように肩を竦めて。
「おいおい、また仕事のことでも考えてたのか?」
「さっきから随分、考え込んでたみたいだけど。何かあった?」
傍らで、ソフィーも首を傾げている。
アークは、再び俯いてみせると。
「いや…あの黒竜のことが、どうも気になってな」
膝の上で組んだ両手を、ぼんやりと眺めながら。
「あんな巨大な魔物が、どうして国のすぐ近くまでやって来たのか」
「どうしてって、それはお前がさっき話してたじゃないか。森で採集作業をしてた俺たちの匂いを追って来たんだろうって」
ジルが言うが、アークはまだ納得できない様子で。




