7-6.異変
(…結界か!)
アークがハッとして目を見開いた。
そう、ここは国の境界だ。即ち、天使たちの浄化が織りなす結界の境界でもある。
魔物は一般的に視力が弱く、代わりに嗅覚が発達している。獲物を捕らえるにも、エネルギーの淀みを匂いで感じ取って追ってくるのだ。
つい先ほどまで、大勢の騎士たちが森の中、つまりは結界の外側で採集作業をしていた。おそらくこの黒竜は、その匂いを嗅ぎつけてここまで来たのだろう。
しかし間一髪、騎士たちは皆結界の中に引き上げた後だった。淀みが浄化され、黒竜は目の前の獲物の存在に気付けない。
その上魔物には、清浄さを嫌うという性質もある。結界を形成する浄化のエネルギーに、黒竜は困惑しているようだ。
それならば――
「アーク、どうする。こっちから攻撃を仕掛けるか?」
「いや、待て!」
傍らのジルを、アークは慌てて制する。
そして、周りの騎士たちに向き直り。
「皆、聞いてくれ!“防御”だ。“攻撃”じゃなく、“防御”を使ってくれ!」
アークの指示に、その場の全騎士たちが耳を傾ける。
「結界のお陰で、あの黒竜は俺たちの存在に気付いていない。だから敢えて攻撃はせずに、自分から森に帰るよう促すんだ。国に入り込まないように、ここで防御壁を張って守る。皆、協力してくれ!」
「…了解!」
騎士たちは一斉に呪文を唱え、黒竜の前に防御壁を張り巡らせた。




