7-3.異変
大聖堂につくと、大勢の天使たちが情報収集に追われ、慌ただしく動き回っていた。
その中をすり抜けて、最上階の執務室を訪ねる。するとそこに居たのはカーシャではなく、シスターのハンナだった。
「あら、イリスちゃん。どうかしたの?」
「シスター、おはようございます。あの、天使長様は…」
イリスが聞くと、ハンナは苦笑がちに。
「ああ、カーシャなら今仮眠中よ。昨日からろくに休めてなかった上に、この浄火の一件でさらに働こうとするもんだから、さっき無理やり寝かしつけたの。何かあれば私が聞くわよ?」
ハンナがそう言って微笑む間に、執務室の扉を開けて花天使が1人飛び込んでくる。
「シスター!“星の丘の教会”から、少し気になる情報が…」
「あらあら、何かしら?」
花天使の少女が手にする羊皮紙に、ハンナが目を通し始める。
そんな2人を前に、イリスは。
「…あの、シスター。私、時間を見てまた来ます。天使長様に直接、お話ししたいものですから」
「あら、そう?」
きょとんとして顔を上げるハンナに、イリスもひとつ頷く。
「お忙しいところ、失礼いたしました。それでは」
そう言って一礼し、イリスは執務室を後にした。
(…ダメだ。みんなこんなに大変なのに、私のために時間を取らせるなんて)
後ろ手に扉を閉めながら、イリスが俯く。ただでさえ人手が割かれる女神祭の最中、浄火の乱れでカーシャも他の天使たちも、余裕は無いはずだ。
(これ以上、トラブルを増やしちゃいけない。女神祭が終わるまで…私が神殿を守らなきゃ)
こうして、イリスは一人静かに、大聖堂を後にした。
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