5-5.天手古舞
(アークの笑った顔…あの頃のまんまだったなぁ)
今朝、開祭の儀を終えたイリスのもとに、思いがけず会いに来てくれたアーク。名前を呼ばれた途端、気が付けば夢中で駆け寄っていた。
何年もの時間の隔たりなど無かったかのように。
アークが騎士団に入り、その実力がどんどん認められていくのが嬉しい反面、イリスのもとからはどんどん離れていってしまうような、そんな感覚を抱いていた。
日々の隊務に追われ、きっともう、イリスのことなど忘れてしまっていると思っていた。だけどアークは、ちゃんと覚えていてくれたのだ。天使として頑張るイリスの姿を、しっかり見ていてくれた。
街で遠くから見ていただけでは分からなかったが、6年前にこの家を出た時より、顔立ちはずっと大人びていた。優しい口調はそのままだったが、その声音は低く落ち着いて、身長も思っていたよりずっと高くなって――
大きな手でイリスの頭を撫でた後、仕事に向かっていったアークの姿が、瞼の裏に浮かぶ。アークの言葉を、笑顔を思い出すだけで、どんなに疲れていても、また頑張ろうと思える。
(私も…もっとアークの力になりたいな)
アークも今頃、疲れをおして仕事に打ち込んでいることだろう。ケーキの差し入れ以外にももっと、イリスが役に立てることは無いだろうか?
そういえば、騎士団の拠点である守衛館の中にも、医療施設があると聞く。もしかすると、そこでも薬が不足しているかもしれない。
責任感の強いアークのことだ。国民のための大切な薬が切れたとなれば、無理をしてでも材料を調達しに行くだろう。それならば。
(…よし、ケーキと薬をたくさん作って、騎士団に差し入れしよう。明日は早起きするぞ!)
やることが決まってすっきりした表情のイリスは、まずは目の前の料理をしっかりとお腹に入れ、エネルギーを補充するのだった。
しかし、その後結局、イリスがケーキと薬を作って届けることは無かった。
最初のトラブルは、翌日から始まることになる。




