第五章 天手古舞
女神祭初日の夕方、ソフィーは束の間の休息をとるため、守衛館へと戻って来た。
祭りが始まるや、国中あちこちで様々な催しが開かれ、街は人で溢れ返っていた。
人が集まればトラブルも増える。予想通りというか、騎士たちの仕事はこれまでの準備期間に増して忙しく、目が回るようだった。詰め所で夕食を取ったらまた、夜の街へ警護に繰り出す。
街ではまだ、諸々のトラブル対応にあたっている仲間もいる。1日目から弱音を吐いてはいられない。
建物の入り口へと足を踏み入れようとした、その時。
「あのぅ…すいません」
後ろから聞こえた、小さな高い声に振り返る。
(わ…)
そこに居たのは、ふわふわのプラチナブロンドに翡翠色の瞳の少女。
刺繡とフリルをふんだんに使ったピンクのワンピースに身を包み、髪や手首には花を模したアクセサリーが揺れている。
ほんのりと施された化粧は、白い肌と大きな瞳を際立たせ、まるで花の妖精が姿を現したかのよう。
あまりの可愛らしさに、ソフィーは言葉を発することも忘れて、まじまじと目の前の少女に見入ってしまった。
「私、聖天使のリタと申します。騎士のアーク様にお会いしたいのですが…」
「あ、アークですか?まだ街で任務中ですが…」
リタと名乗った少女の口から出た名に、ソフィーは我に返って慌てて応える。
「そうですか…お忙しいんですね」
そう言ってしゅんとするリタだったが、すぐに笑顔に戻ると。
「それでは、これをアーク様にお渡しいただけないでしょうか。今朝、助けていただいたお礼なんです」
リタが差し出してきたのは、リボンで丁寧にラッピングされた小さな袋。一緒にメッセージカードのようなものも付いている。
ソフィーは、それを受け取りつつ。
「…分かりました。見かけたら渡しておきますね」
「よろしくお願いします!」
リタはぺこりと頭を下げると、花がほころぶような笑顔を残して駆けて行った。




