4-12.開祭の儀
自分の状況が理解できると、リタは顔を真っ赤にして、青年の腕の中から飛び退く。
「やっ、やだ…!ごめんなさい、私、急いでて…」
恥ずかしさに火を噴くような頬を両手で覆う。青年はそんなリタに向けて、静かに首を横に振ると。
「いえ、こちらこそ急に飛び出して申し訳ない。怪我がなくて何よりでした」
その、優しい言葉と笑顔に。
心臓が高鳴る。先ほどまでとは別な感情で、頬が熱くなるのが分かる。
と。
「おーい、アーク!何してんだ?」
聞こえた声に、青年は振り返ると。
「いや、何でもない。今行くよ」
青年はリタに、それでは、と短く別れを告げ、騎士たちの中へ合流していった。
残されたリタは、その後姿をいつまでも、いつまでも目で追い続けるのだった――
(…“アーク”、様…)
その名前には覚えがある。4月に掲示された騎士団の昇格通知に載っていた、最年少の守衛部隊長だ。
ぽーっとする頭で、そんなことを考えていると。
「…リタ、ねぇちょっとリタ!しっかりして!!」
いつの間に傍に来ていたのか、レイナとエルダがリタの身体を揺さぶる。
我に返って、目をぱちくりさせるリタ。
「もう!何度呼んでも反応しないんだもん!」
「早くしないと、出立式始まっちゃうよ」
「う、うん…」
2人はリタの手を取り、元居た場所に連れてくる。
確保されていた場所からは、整列する騎士たちがばっちり見渡せた。
その中でもリタの目を惹きつけるのはやはり、班の先頭に立つアークの姿。
今もまだ、高鳴る鼓動がやまない。
「騎士様って、全員集まるとこんなに大勢いるんだねぇ」
「あーん、私の運命の騎士様はどこ?」
そう言ってきょろきょろと首を動かしている、レイナとエルダに挟まれつつ。
「…決めた」
「えっ?」
リタの小さな呟きに、2人が同時に振り返る。
「私――アーク様と番になる!」
輝く笑顔でそう宣言するリタに、レイナもエルダも、ぽかんと口を開けるのであった。