4-9.開祭の儀
よろけた拍子に、場違いに裏庭へ足を踏み入れたアークを、イリスが驚いた顔で見つめている。
海色の瞳と空色の瞳が、交差する。
「…アーク?」
名前を呼ばれるのは、いつ以来だろう。
アークは、困ったような笑みを浮かべて。
「…久しぶりだな、イリス」
そう応えると、イリスはみるみるうちに、眩しいほどの笑顔になって、アークのもとへ駆け寄ってきた。
「アークも、開祭の儀に出てたの?」
「ああ。イリスが浄火点灯に選ばれてて驚いた。聖天使になって活躍していることは知ってたが…立派な天使になったんだな」
アークが言うと、イリスはふるふると首を横に振る。
「全然!緊張して、もう必死だったの」
そう言って無邪気に笑うイリスは、つい今しがた祭壇の間で見せた、気高く神聖な姿とは打って変わって。
そのあどけなさは、アークの記憶の中の、あの頃のイリスそのままだった。
中々話しかけられなかった本当の理由は、イリスのことが、何だか自分からずっと遠い世界の存在のように感じてしまったから。
でも、そんなことは無かった。ほっとしたように微笑むアークを、イリスは真っ直ぐに見上げてくる。
「アークこそ、今年から守衛部隊長だよね。おめでとう」
「いや。騎士としての実力はまだまださ」
照れ隠しに頭を掻くアークに、イリスは。
「そんなことない。街でアークが頑張ってるところ、見てたもん」
「なんだ、それなら話しかけてくれたら良かったのに」
「それは…お仕事の邪魔するの、嫌だったから」
ついさっき、自分の口から出たのと同じ文句に、アークは一瞬、ぱちくりと瞬きする。
それから、可笑しそうに笑い始めた。




