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3-11.女神祭

12年前、イリスとアークの父の命を奪った魔物が襲来したのは、女神祭の最中だった。


リルフォーレの歴史上稀に見るほどの強力な魔物が、天使たちの浄化をすり抜けて国に入り込んでしまった理由は、今もはっきりしていない。


しかし、当時の神殿守護職だった聖天使の一人が、祭りの期間中体調を崩していた。


あの時、他の天使たちが彼女を適切にフォロー出来ていたら、結果は違っていたかもしれない。


そこで天使界は、4年後の祭りから体制を一新した。


聖天使だけでなく花天使たちも動員し、ここ祭壇の間に灯される“浄火”の炎を24時間体制で見守る。


国内の浄化が弱まれば、それを反映して“浄火”も弱まる。少しでも異常があれば、すぐに上位天使たちに報せが行く仕組みだった。


カーシャの傍らで、ハンナもひとつ、頷く。


「確かに、あんな悲劇は二度と繰り返してはならないわ。だからこそあなたは、天使長として人一倍厳しく、私たちを導いてきたんでしょう?」


カーシャが天使長の職に就いて3年余り。その間、カーシャが最も力を入れてきたのは、天使たちの教育だった。


その為特に若手の天使たちから、カーシャはしばしば畏れられている。しかしその内面は誰よりも慈悲深く、奉仕的な女性であることを、ハンナはよく知っていた。


「聖天使になったとはいえ、年頃の女の子ですもの。お祭り気分で浮かれるのも無理はないわ。でも、きっと大丈夫。あなたが教えてきたことは正しいはずよ。…それにあの子たちには、すぐ近くに良い見本がいるじゃない?」


「…イリスのことかしら」


カーシャの言葉に、ハンナは微笑みながら頷く。


「さすが、あなたの人選だわ。イリスちゃんほど、浄火点灯に相応しい天使はいないもの。イリスちゃんの立派な背中を見れば、あの子たちだってきっと、意識が変わってくるはずよ」


「…そうね」


ここでようやく、カーシャの顔にも微笑みが戻る。


「守護職が一度に3人も入れ替わってしまって、あの子には随分苦労をかけたわね」


「仕方ないことよ。守護職はどうしても、結婚前の若手の聖天使が多くなってしまうもの。」


浄化の魔法種(カインド)が発現するのは、圧倒的に女性が多い。そのため必然的に天使界は女性社会となり、結婚や出産を機に職務を離れる聖天使も多いのだ。


「イリスは責任感の強い子よ。1人で無理をしていないといいんだけど」


「そうねぇ…他の3人が、イリスちゃんを支えてくれるようになればいいわね」


そう言うと、ハンナは徐に祭壇の前まで進み、手を組んで祈りを捧げる。


「リリーフェ様。どうか、若き天使たちに光のご加護を。」


そんなハンナの姿に、カーシャも目を閉じ、静かに神に祈るのだった。



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