3-7.女神祭
イリスの姿が見えなくなってから、ソラナはふうと一息吐いて手を下ろす。
「お、また客が来てたのか?」
市場の人混みの中から徐に姿を現した男性に、ソラナは振り返って。
「ああ、イリスちゃんよ。今日も薬を持って来てくれたわ」
「そうかい。いつも助かるなぁ」
そう言って店に立った男性は、ソラナの夫で織物職人のマルクだ。
「お前、もう家に戻ってていいぞ。さっき来た3人組のワンピース、仕立てにゃならんだろう」
「そうねぇ…女神祭までに3着、どうにか間に合わせないと」
言いながら、ソラナは早速数枚の布地を手に、帰り支度を始めた。
「“開祭の儀”用の装束作りもまだ残ってるし…こりゃ夜なべ仕事確定ね」
「まったく、天使様が全員、イリスちゃんみたいな子だと有難いんだけどなぁ。さっきの3人も確か、イリスちゃんと同じ神殿守護職だろう。無茶な注文しといて、交換品の一つも持ってこないなんて」
「まあまあ、もとから天使様の分のお代は、国が担保してくれてるわけだし」
そう言って苦笑しながら、ソラナは大きな籠を両腕に抱えると。
「それじゃ、後はよろしくね」
「おう」
マルクが頷き、ソラナは小走りで家に戻っていくのだった。