3-5.女神祭
ルシアと別れて市場にやって来たイリスは、所狭しと立ち並ぶ露店の中を足早に進み、早速お目当ての仕立屋に立ち寄る。
「いらっしゃい、イリスちゃん!そろそろ来る頃だと思ってたわ」
「ソラナさん、こんにちは。今日は、ワンピース用の布地が欲しいんです」
「了解。ちょうどいいのが入ってるわよ」
言いながら、ソラナと呼ばれた女性は後ろの籠をゴソゴソと漁り始めた。
リルフォーレには、騎士や天使ほど強い光魔法をもたなくとも、全ての国民が生活の中で何かしらの光魔法を使っている。農耕や工芸、料理などその範囲は多岐にわたるが、皆自分の得意分野に光魔法を活かして、それを生業とするのが一般的だ。
ソラナは、縫製や刺繍の魔法に特化した、服飾職人である。
「あったあった!これ、イリスちゃんに似合いそうだなと思って、とっといたの。」
そう言ってソラナが広げたのは、鮮やかなスカイブルーに染められた大きな布地。
「わぁ、とっても綺麗…!」
「でしょ?さて、これどうする?私が仕立ててもいいけど、イリスちゃんなら自分で好きに作れるもんね」
片目を瞑ってそう聞いてくるソラナに、イリスも頷く。
「はい、布地のままいただいていきます」
「了解。まいど!」
ソラナは、布地を手早くたたみながら。
「助かるよ。実はついさっき、たくさん服の注文入っちゃってさ。これから頑張らないと」
「そうなんですか?」
綺麗に折りたたまれた布地を受け取り、イリスが聞き返した。
「うん。まあ、女神祭が近いから仕方ないんだけどね。みんな、おしゃれして出掛けたいじゃん?」
「なるほど…」
納得顔で頷いてから、イリスは。
「ソラナさん、ちょっと、右手を出してもらえますか?」
「ん?」
目をぱちくりさせながらもソラナが右手を差し出すと、イリスはそれを両手で包み込む。