3-4.女神祭
「きゃ~!おめでと~う!さっすがイリス、天使界の期待の星だね~!」
「いえそんな、もう、身に余る光栄で…ああ、何だか今から緊張してきちゃった…」
右手で心臓を押さえるイリスと、まるで自分のことのように大喜びのルシア。
「もー、イリスは真面目過ぎるんだよ!もっと肩の力を抜いて、いつも通りやれば大丈夫!」
ルシアがイリスの肩を、バシバシと大袈裟に叩く。
「それにさ、仕事も大事だけど、4年に一度のお祭りだよ?ちゃんと息抜きもしないと!ただでさえ大変な守護職なんだから、たまにはリフレッシュしておいで!」
「…はい。ありがとうございます」
えへへ、と笑いながら、イリスが素直に頷くと、ルシアも満足げに微笑んだ。
「それじゃ、足止めしちゃってごめんね!今から帰るとこ?」
「はい。市場で、新しい布地をゲットしてから帰ります」
「お、いいね~!…ん、そういえば、さっき市場で、他の守護職の子たちも見かけたよ?」
「そうなんですか?」
イリスが聞き返すと、ルシアはひとつ頷いて。
「うん。布地とか飾り石とか、色々抱えて帰ってったけど…みんなで何か作るの?」
「いえ、そういう訳では…」
イリスは首を捻るが、ルシアは何でもないように笑う。
「そっか。じゃ、個人的な買い物だったのかな?」
そう言って、ひらひらと手を振ってみせてから。
「それじゃ、またね、イリス!」
「はい!ルシアさんもお元気で!」
花束を手に“風見鶏の教会”へ駆けていくルシアの後姿を見送って、イリスはふと、首を傾げる。
(――そういえばまだ、他の3人と教会で会ったこと、ないかも…)
リタたちが入ってくる前、ルシアを始めとする先輩たちと一緒に仕事をしていた頃は、こんな風に教会で出くわすことはしょっちゅうだった。
教会の仕事に付きっ切りのシスターに代わり、時間の取れる守護職が薬を作って届ける。人手が足りないときは、助っ人として雑務を手伝うこともある。天使界は、このような助け合いで成り立っているのだ。
(…みんな、神殿の浄化が終わった後、何してるんだろ?)
そんなことが頭の片隅に引っ掛かりながらも、イリスは市場に向けて、再び歩を進めるのだった。