3-3.女神祭
聖天使の仕事は多岐にわたるが、時間的な融通が利きやすいのは、神殿守護職や教会の補助職だ。
神殿守護職は、1日1回、持ち場となる神殿の浄化を済ませれば、あとは基本的に自由に過ごすことが出来る。ただし、他の仕事よりも浄化に多くの魔力を消費するため、選出されるのは聖天使の中でも一握りの実力者のみだ。
もう一つの教会補助職は、教会に住み込みで働くシスターを補佐する役目で、ルシアのように子供を育てながら仕事をする天使が多く就く役職だった。
「今、天使長様にも相談してるとこなんだ。“女神祭”が終わった後くらいには、復職したいなーって」
「そうだったんですね」
“女神祭”。それは4年に一度開催される、リルフォーレの国祭だ。
言わずもがな、女神リリーフェを称える祭りであり、7月の頭に一週間にわたり国中が祝賀に包まれる。
「せっかくなら女神祭から復帰して、イリスたちがちょっとでもお祭りを楽しめるようにしてあげたいとこなんだけど。もう、天使の配置もあらかた決まってるらしくて」
「ええ…実は内々に、開祭の儀の“浄火点灯”の役目を、仰せつかっているんです」
「えっ、うそ!すごいじゃん!!」
イリスの言葉に、ルシアが目を丸くした。
国一番の大祭といっても、イリスたち天使は手放しで楽しむわけにはいかない。人々が活発になるほどエネルギーは淀み、普段にも増して浄化の力が重要になるからだ。
そのため祭りの期間中は、平常時の浄化に加え、大聖堂に“浄火”の炎が灯される。
“浄火”とは、天使たちが自らの浄化の魔力を具現化させたもの。力のある天使ほど、その炎は朱く煌めく。
女神に捧げる神聖な炎には、リリーフェの光の加護を強める力があり、騎士たちの光魔法や、天使たちの浄化の力を高めてくれるのだ。
女神祭の開祭の儀では、まず国王が大聖堂の祭壇に昇り、女神の前で祭りの開幕を宣言する。
そしてその後、天使長から指名を受けた天使が、祭壇に掲げられた聖火台に、自らの“浄火”を灯す。
祭りの平穏を守る大切な炎を灯すのは、これからの天使界を担っていく若手の天使。勿論、その中でも最も秀でた一人が選出される。その大役を、今回はイリスが務めることになったのだった。