終-2.約束のその先へ
イリスが退院するのに合わせて、アークもようやく仕事の休みを取り、荷物をまとめて宿舎を出た。
「アーク、荷物、この辺に置いといていい?」
「ああ、ありがとう」
引っ越し作業はイリスにも手伝ってもらったが、狭い宿舎に置いていた物はほとんどなく、2人いれば運び出すには十分だった。これならすぐに、荷物も片付くだろう。
「アークの部屋は2階だから、やっぱり眺めがいいね」
言いながら、イリスが窓を開けて風を入れる。カーテンが膨らみ、同時にイリスの銀色の髪が、夏の風を受けてさらさらと揺らめいた。
気持ち良さそうに風に吹かれながら、イリスはこのまま、窓の外の大空に飛び立ってしまいそうな。
ふと、そんな錯覚に襲われて、アークは思わず、その細い肩を後ろから抱き締めた。
「アーク…?」
イリスが驚いて振り返ると、アークはそのまま、イリスを胸の中に抱き寄せる。
今でこそ、イリスは家に戻れるまで回復したが、入院中は様々な症状に苦しむ姿に、何度も胸が裂けそうになった。このまま命の灯が、消えてしまうのではないかと。
いや、それ以前に、アークが神殿でイリスを助け出すのが、少しでも遅れていたら。そもそも、イリスがたった一人で神殿を浄化して回っていたことに、気付けなかったら。
今、こうしてイリスを抱き締めることは、出来なかったかもしれない。
「ねぇ、アーク、どうしたの?」
戸惑いながら、背に腕を回してくるイリスに、アークは。
「…退院したら番になるって、約束したよな?」
「!」
腕の中で、イリスが頬を真っ赤に染める。
アークは腕を緩めると、その頬を優しく撫でた。
「俺はこれからもずっと、イリスの傍に居る。だからイリスも、どこにもいかないでくれ」
「…うん」
頷き、イリスはそっと目を閉じる。
アークからの深い口付けを受け入れてから――イリスは、その腕に身を委ねた。