2-8.騎士と天使
3年後、イリスは全ての講義を終えてこの家に戻って来たが、アークは今も騎士団の宿舎に暮らしている。
一緒に暮らしていたことなど嘘のように、今ではすっかり、アークとは他人同士のようになってしまった。それでも聖天使として仕事をしていると、街で騎士として働くアークの姿を見かけることがある。
時には魔物を追って街を走り抜け、時には道端で泣いている子供に優しく声をかけ。
その瞳に宿る強さと優しさは、あの頃と変わらぬままだ。
イリスはいつも、そんなアークの姿を、ただそっと見守っていた。突然声をかけたりして、アークの仕事の邪魔にはなりたくない。
父親譲りの天性の光魔法と、人一倍強い正義感。幼い頃からアークはいつも、イリスを守ってくれた。
だけどその強さと優しさはもう、イリスが独り占めすべきではない。騎士となったアークの使命は、この国の全ての民たちを、守ることなのだから。
だとすれば、今のイリスにできることは、自らの仕事を全うすること。
天使と騎士は一蓮托生。聖天使としてのイリスの仕事が、騎士であるアークの仕事を支えているはずだ。
調合を終えた薬草に、イリスは仕上げの回復魔法をかける。
(…アークに負けないように、私も頑張らなくちゃね)
瓶に詰めた薬を籠に入れ、イリスは再び街へと出掛けていった。