10-17.祭りのあと
みるみる顔を真っ赤に染めると、飛び退くように立ち上がる。
「…なっ、何言って…!まだ治りきってもいないのに、無理に決まってるだろ!!」
「ううん、平気だよ?今はどこも何ともないもん」
そう言って微笑むイリスを前に、一瞬、理性がぐらりと傾く。
「…っ、だ、ダメだ!お前はもう寝ろ!俺は見張りに戻る!!」
「うぷ!」
すんでのところで持ち堪えると、アークはイリスに頭から布団を被せる。そして自分はぎこちない足取りで、扉近くの椅子にドスンと腰掛けた。
しばらくの間、アークはイリスに背を向けて、ひたすら耐えていたのだが――やがて、ベッドから寝息が聞こえて来たので、恐る恐る振り返った。
近寄ってみると、イリスは既にベッドの中で熟睡している。
(こいつ…この状況で、肝据わってんな…)
まだ赤みを帯びたままの顔を右手で覆い、思わず溜息が漏れた。押さえ込んだ胸の奥ではまだ、欲求がくすぶっているのを自覚する。
目の前のイリスの寝顔には、銀の髪が少しかかっていた。アークはそれを、指でそっと掬い取り。
(…少しくらい仕返ししたって、罰は当たらないよな)
触れても、起きる気配はない。無防備に眠り続けるイリスに、そっと口付けた。
それから、イリスが退院するまで毎晩、アークが眠れぬ夜を過ごしたことは、言うまでもない。