10-10.祭りのあと
2人はそれぞれ薬の入った箱を手に、保管庫までやって来る。
扉を開けると、そこは…
「うわぁ…覚悟はしてたけど、想像以上ね」
半眼でソフィーが呟く。
保管庫の中は、祭り期間中の混乱を色濃く残し、あちこちの薬棚で薬が乱雑に散乱していた。
「仕方ない。ひとつひとつ戻していくか…」
溜め息混じりに腕まくりするソフィー。その横で、イリスは。
「これ…引き出しと中の薬が、微妙に違ってますね」
「え?」
ソフィーが振り返ると、イリスは『解熱剤』の薬棚の一つから、瓶を取り出して。
「この薬、確かに解熱作用もあるんですけど、普通なら『鎮痛剤』に分類されるものです」
「まじか…これ、ひょっとして女神祭の前から、ごっちゃになってるんじゃない…?」
そう考えると気が遠くなり、ソフィーはめまいに襲われるようだった。この保管庫の中の途方もない数の薬を全て調べて、分類して、種類ごとに棚を整理して…
「あの、ソフィーさん。ここは、私に任せてもらえませんか?」
「…ふぇ?」
イリスの声に現実に引き戻されたソフィーは、金色の目をぱちくりさせる。
「天使は、詳細な医療の知識も講義で学びますので、大抵の薬は見れば分かります。このくらいの量なら、1日あれば整理できるかと」
「ほ、本当ですか…?でも、無理をしたらお身体に触るんじゃ…」
救世主の登場に涙が出そうになりながらも、イリスの身体を気遣うソフィー。
イリスは笑顔で頷いて見せた。
「体調が悪くならないように、休憩しながら作業しますので。万が一何かあっても、ここならすぐにお医者様も呼べますし」
「…それじゃ、お願いしてよろしいでしょうか…?」
こうしてイリスは、見事に“仕事”を手に入れたのである。




