10-3.祭りのあと
「天使として一番大切な“心”を、育てきれなかった。それに気付かずに、未熟なままのあの子たちを、聖天使として送り出してしまったのだから」
「“心”…ですか」
イリスが繰り返すと、カーシャが頷く。
「あの子たちはあなたのように、奉仕の心をもって聖天使になったわけじゃない。ただ、自分の利益や名誉のために、聖天使の肩書きが欲しかっただけなのよ」
カーシャは一瞬、目を閉じる。
瞼の裏には、青ざめた顔で必死に言い訳を重ね、涙を流して許しを請う3人の姿が浮かんでいた。
口にするのは、保身のための言葉ばかり。守るべき国の人々や、迷惑をかけた仲間の天使たちへの想いなど、一言も出てこなかった。カーシャは怒りを通り越して、憐れみをもってそんな3人を見ていたのだった。
「あの子たちは、“得る”ことこそが幸せだと思い込んでいるけれど、そんなもの所詮見せかけよ。本当の幸せは、“与える”ことで生まれるの。それが分かっていればあの子たちも、ここまで身を堕とさず済んだでしょうに」
カーシャの言葉に、イリスも静かに頷く。
誰かの力になれた時、大好きな人を笑顔に出来た時、胸に広がる温かさ。“得る”ことで感じられる満足感は一瞬だが、“与える”ことで生まれた幸せは幾重にも連鎖し、自分だけでなく、周りのたくさんの人々にまで広がっていく。
“与える”幸せを知らないリタたちは、自分が“得る”ことばかりに執着し、最後には全てを失ってしまった。
「…じゃあ、私はもう行くわね。また決まったことがあれば、報せに来るわ」
「はい。ありがとうございます」
カーシャは病室の扉に手をかけるが、ふと振り返って。