10-2.祭りのあと
「なりません!お医者様の言うことをよく聞いて、十分に休養なさい。お医者様が復帰を許可するまで、休職を命じます」
カーシャのあまりの迫力に、何も答えられないイリス。するとカーシャは、次の瞬間には優しく微笑んで。
「ただし、療養を終えた後には、また神殿守護職として力を発揮してもらうから、覚悟しておいてちょうだい。“自浄”は、念入りに行っておくようにね。」
「…はい!」
カーシャの人差し指が、イリスの頬を軽くつつく。イリスもつられて、笑顔で頷いた。
「それじゃ、私は騎士団長にご挨拶してくるわ。お大事にね」
「…あ、あの、天使長様!」
立ち上がろうとするカーシャに、イリスが慌てて声を掛ける。
「あの…リタたちは今、どうしていますか?」
浄化の力を失ってしまったというリタたち。これから彼女たちは、どうなるのだろうか。
カーシャは、小さく溜息を吐いてから。
「大聖堂にいるわ。一通り事情を聞いて、処分が決定するまでは謹慎させる。彼女たちがしたことは、決して許されることではない」
リタたちが神殿の浄化を放棄したことで、リルフォーレの国民は危険に晒された。怠慢の末、浄化の力まで失ったとなれば、少なくとももう聖天使ではいられないだろう。
「…私が、みんなをきちんと説得できていれば」
イリスがそう言って俯くが、カーシャは首を横に振る。
「あなたのせいじゃないわ。きっと誰が言っても、結果は同じだった。…敢えて言うなら、これは天使界全体の責任よ」
その厳しい言葉は、まるでカーシャ自身に向けられているようだった。




