第十章 祭りのあと
アークのお陰で一命を取り留めたイリスが、病室で再度の治療を受け終わった頃には、既に窓から夕陽が差し込んでいた。
夕飯時になっても食事を摂る気力のないイリスに、女将は特製の粥を作って届けてくれた。
沢山の具材が入って栄養満点なうえに、それら全てが柔らかくなるまで丁寧に煮込まれていて、咀嚼せずとも飲み込める。
イリスの身体のことを心から想って作られた料理に、一口食べるごとに胸が温まるようだった。
天使長カーシャが病室を訪れたのは、イリスが粥を食べ終えて間もない頃である。
「天使長様…!」
驚いた顔で身体を起こそうとするイリスに、カーシャは。
「そのままでいいわ。ごめんなさい、様子を見に来るのがこんなに遅くなってしまって」
言いながら、カーシャがイリスの傍らに腰掛けた。
「明日からの神殿守護職は、無事に決まったわ。ルシア達守護職の経験者が、交代で勤務してくれることになったの」
「ルシアさんたちが…」
信頼する先輩天使の名に、イリスもほっと表情を緩める。
「あなたの性格だから、これを伝えないと安心して休めないだろうと思って。あとは私たちに任せて。今は自分の身体を治すことが、あなたの一番の仕事よ」
「はい。早く体力を戻して、一日も早く復職できるようにします」
しかしその言葉に、カーシャは目を吊り上げた。




