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9-15.真実
――…
あれほど激しかった痛みが、消えた。それと同時に感じたのは、大好きな人の匂いと、唇に触れる――
イリスが目を開けるのと、アークが重ねた唇を放したのが、ほぼ同時だった。
「…落ち着いたか?」
不安げなアークの瞳が、吐息がかかるほどの距離でイリスを見つめている。
“魔力欠乏”の発作を起こしたイリスに、アークは自らの魔力を分け与えた。
自分自身もかなりの消耗を伴うため、実戦の場では決して使うことのない方法だが、“魔力欠乏”には最も効果的な応急処置だ。
そしてこの方法においては、“口移し”が一番効率良く、魔力を与えられる。
そう、頭では理解したものの。
イリスはアークに向けて、ぎこちなく頷いて見せた。
アークは心から安堵したように、深い溜息を一つ吐いて。
「…帰ろう。今度こそ、治療に専念してくれ」
「うん…」
イリスをしっかりと抱え上げ、アークが馬車に乗り込む。
日が傾き始める中、2人を乗せた馬車は、守衛館へと戻っていった。




