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9.吉田君


 ノリ子先生による性教育があった日の就寝時間。

 そう言うことかと一人納得してベッドに潜り込む。なかなかに寝られぬ手応えのある夜を過ごした。

 

 翌朝、昨夜とはうってかわって、すがすがしい目覚めを迎えた。

 近年まれに見る、すがすがしい目覚めだった。鬱憤だとか不満だとか、全部吹き飛んだ目覚めだった。


 昨日と同じく、興奮しながらセーラー服に着替えた。相変わらずスカートの開放感がハンパない。

 親父と罵りあいう朝の行儀をつつがなく執り行い、時間通りに表へ出た。


 ナオも表に出ていた。こヤツも、ずいぶんすっきりとした顔をしている。


「よーナオ!」

「よーアオイ!」


 お互い軽く片手をあげて、真面目な顔で挨拶。

 白々しく見つめ合ったあと、同時にニチャリと湿っぽく笑う。


「だよなー!」

「だよなー!」


 お互いそれ以上何も言わず何も問わず、学校へと足を向けて歩き出した。

 

 教室で、3人娘と朝の挨拶とイロイロと話をした。こんな可愛い子達と毎日お話が出来る。触れ合える。素晴らしきかな女の子。みんな1コずつ持ってる。……こんな子もやってるのかな? ユキちゃんはやってなさそう。


 授業は明日から。本日はクラス会という名の学校説明。その後は、オリエンテーリング。そして部活動の見学会となってお開きだ。

 座学が終わったので、みんなしておトイレだ。興奮するね、隣の個室から聞こえてくる音って!


 このみちゃんが肩をトントンしてきた。この子、自然なスキンシップが上手い。俺も見習おう。そして技術を盗むんだ。


「アオイっちは部活動するん? その身体能力をもってすれば、何でもござれだろ?」

「興味ないなー。スポーツはかったるいし。入部した暁には、古き良き上下関係をぶちこわす自信がある」

「かったるいよねー。じゃ帰宅部?」

 帰宅部という名称って、まだあるんだ……。

 

 

「なあ、睦月君よ、如月さんはどこ?」

「なんだいあらたまって、吉田君。アオイなら友達と連れだっておトイレだろう」


 ナオは机でなにやらメモを取っていた。そこへチャラい真性スケベの吉田がってきて、ナオの机に尻を載せたのだ。

 カワイイ系のスケベ岸や、真面目優等生系スケベの佐藤も、ナオの回りにごく自然に集まっている。


「……如月さんさー、可愛いよなー」

 ど直球だった。吉田は頬を赤らめていた。純情派だった模様。


「頼む睦月! 如月さんとデート、セッティングしてくれ!」

 両手を合わせ、硬く目をつむり、ヘコヘコと拝み倒した。


「いや、まあ……」

 ナオは目を泳がせていた。気まずさと、どう対処していいのか迷ったのと、色んな感情がまぜこぜになった顔をしている。


「ちなみに、吉田、アオイのどこが気に入ったんだ? あいつ、がさつだぜ?」


 チョイチョイと吉田が手招きする。内緒話の合図だ。ナオ、吉田、岸、佐藤が頭をくっつけるまでに近づけた。

「そこが良いんだ!」


「あれの何処が好きなんだ?」

「クラスで、いや学年で1,2を争う美人だから!」

「最低だな。分からんでもないが」


「それと笑顔! いつもニコニコしてるのが良い!」

「うん? それなにげに評価高いぞ」


「それに、可愛い顔してるのに、おおざっぱな態度してるのが良いんだ! 後、無防備なところな! チラチラと見えそうで見えなくてたまに見えるおパンツとかがイイ! だって綺麗だし、可愛いし、土下座すれば見せてくれそうだし! ワンチャン有りそうだし!」


 吉田は自分の心の内を必死に打ち明けた。だが、悲しいかな、ティムティムに脳を支配されているようで、何ともバカとしか言いようのない内容だった。


 これに対し、なんともな顔をするナオである。

「もっと美人さんがいるだろ、うちのクラス? 水無月とか、となりのクラス委員長とか」


 水無月さんはこのクラスで、最も上位に君臨する美人さんだ。すでに体が出来上がっている点で男子からの人気も高い。隣の委員長も可愛い。眼鏡な所が評価高い。


「水無月も良い。けど、あいつ突っ慳貪で陰キャでとりつく島がない。如月はとりつく島がたくさんありそうだ。上手くいけば――」

「吉田、吉田、もうそれくらいにしとけ! デートとか考えてみるから!」

 下品なワードが飛び出しそうになったので、ナオがそれを遮った。


「いーや! 睦月はまだ俺の思いを知らない! もうもう俺は俺は如月の股間に顔を突っ込みたい!」

「おいやめろって!」


 ナオは、吉田の口を塞ごうと手を伸ばしたが、逆にがっちり捕まれてしまう。無駄に反射神経がいい。


「如月のおパンツをくんかくんかしたい! 夕べも如月をおかずにした! 俺は、如月が……」


 ここで吉田の熱い演説は中断された。

 あることに気づいたからだ。


 それはナオの視線。吉田を通り越して、彼の後ろに向けられた視線だ。

 振り返った吉田の顔は、幽霊を見た女子のような青い顔をしていた。

 ざわついていた教室が、水を打ったように静まりかえりまくっていた(過去進行形)。

 初めて知った。急に静かになると「シーン」って音が聞こえてくるんだ。


「おかずって何?」

 俺がいたからだ。


「さいてぇ」

 俺だけじゃない。虫けらの死骸を見る目をしたこのみちゃんもいる。


「ひくわぁー」

 斜めに構えて怒りを表情に浮かべるそうちゃんも、吉田の話を聞いていた。


 教室中の女子の目が吉田に突き刺さっている。どれもこれも鋭角的な視線だ。ちなみに、男子は見て見ぬふりをしている。いたたまれないんだろう。


「んねんね、おかず、ってなに?」

 染み入るような静寂を平気で破るユキちゃんは、いつも通りで安心したよ。

「後で教えてあげるから、ユキちゃんは黙ってようね」

「んなー」

 不満の声を上げるユキちゃんを横にどかしておく。この子、体が柔らかい。


 気持ちは解る。吉田の気持ちは。

 俺だって可愛くて、ガードがユルユルの女の子がいたら、あらぬ期待を抱いてしまう。仕方ないと思うのだが、それは男の感覚。悲しいかな俺は女の子だ。この場面、非情に徹しないと、変に疑われてしまうだろう。


「吉田くーん……」

 と、ここでふと思うことが……。ユキちゃんは、おかずの意味を知らない。自家発電の口語訳を知らないなんて事はない。2つのワードが繋がらないだけだ。

 それを後で教えてやると言うことは――女の子と猥談が出来ると言うこと。


 吉田には褒美をとらせても良いと思う。ので、ケチョンケチョンに痛めつけて心を折ったまま残りの中学生活3年間を送らせるような行為はやめておこう。

 ぶっちゃけ、俺はおかしくて笑うのを堪えるのに苦労しているくらいだ。


 どうしよう? こうしよう!(ここまでの思考に至る時間は0.05秒だ)


「君の思いは嬉しいよ。でも僕は恋愛ごとに興味がないのさ!」

 腕を振って足を交差させて、ヅカタカラの男役ムーブ。わざわざ一人称を「僕」に変えた。


「今はね!」

 唇に指を一本当てて、にっこり笑う。


「それに吉田君が悪いんじゃない。今の時期の男の子は……まあこんなものさ!」

 腕を組んで片手をアゴに当てる。アンニュイな表情を添えて。 

 ……にしても静かだ。だれも声を出さないでいるもんだから、まるでお芝居しているようじゃないか。してるけど!


「僕は気にしてないよ。むしろ理解していると言って良いだろう。でも大っぴろげに言われると、恥ずかしくなるのも事実だ」


 そしてお貴族様の気分で、横を向いてから目を軽く閉じる。吉田には俺の睫が長いなーって目に映ることだろう。


「できれば、今後、僕を引き合いの出すのは止めてくれたまえ。純粋な愛の語らいに(とど)めると約束してほしい」


 そして正面を向き、目を開ける。

「どうだろうか? 吉田君」


 ヨシ! ここで謝るんだ吉田君!


「あ、ああ、その、ごめん、如月さん。ごめんなさい!」

 すっげーしょぼくれて、上目遣いに俺を見る。チラチラと。


「素直な子は嫌いじゃないよ」

「馬鹿アオイ。そこまで言ったら吉田がまた勘違いするぞ!」

 おっ! ナイスフォローだナオ君!


「吉田ぁー、アオイはお前の手に余るって。諦めなよ」

「う、うん……」

「キャラを元に戻すぞ――、気にすんな吉田! 好きになってくれて有難う。でもごめんなさいだ。落ち込むなよ。愛だとか恋だとか、正直、全然興味ねぇんだ。アハハハハ!」


 俺はバンバンと吉田の背中を叩いてやった。口調も元に戻した。

 吉田は恥ずかしそうにしながらだけど、やんわりと笑った。

 教室のザワめきも元に戻った。静かになる前より音量が大きい程だ。

 

 さてッ! ユキちゃんと猥談ーッ!

「アオイっち、スゲー面白いことになってるよ」

 このみちゃんがニチャニチャと笑っている。


「え? なにが?」

「クラスの女子達がざわついてるんだけど」

 女子が固まってるところに視線を置く。すると、女子達が一様に口元に拳とか掌だとか、要は手を当てて息を飲んでバタバタした。


「アオイっち、王子様確定の瞬間です」

 ……王子様ぁ? まてまてまて!


 理解した理解した理解した! 

 冷静に冷静に冷静に!

 逆にこれはチャンス。女の子と仲良くなれるきっかけをつかめるチャンス! 頑張れ俺!


「よしてくれウサギちゃん。柄じゃない。あれ?」

 しーん……。

 件の水無月さんなんか、目を見開いて俺のことを見てくれている。あれは珍獣を見る目だ。


「あ、やっぱだめだわ!」

 恥ずかしくなって後頭部を掻く。

 ドッと笑いが巻き起こる。そこまで笑わなくても良いだろうに。

 なんとなく、オチが付いたようだ。


「んねんねんね、おかずって何? おしーておしーて!」

 ユキちゃんだ。こいつの舌退化してんのか? 可愛いからウェルカムだけど。


「耳貸して。あのな――」

 髪の毛をかき上げる仕草。ひょこり顔を出す小さい耳。くっそかわいいッ! 毎日耳の後ろを洗ってるんだろうな。俺も今日から洗うことにしよう!


 欲情をぐっと堪え、口を近づける。

「あのね……」

 おかず。それは未知なる物。人類の希望。


「こらー! 吉田ぁー! オメ、なにかんがえとんじゃー!」

 ユキちゃんの顔が真っ赤に染め上がった。


「え? ユキちゃん、キャラが違う」

「おめぇ、いいかげんにしろよぉー」

 舌っ足らずなまま汚い言葉を投げかける激怒型ユキちゃんもまたかわゆす。


 

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