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16.人の心


 不思議なもので……風呂などのように、密室で一人きりになると、なぜか嫌な出来事を思いだしてしまう。

 そしてそれが頭の中でグルグル回ってなかなか消えてくれない。


 というわけで、現在地はお風呂。湯船の中。頭の中で回っているのは俺と親父の似ているところ。


 この世で一番嫌な人間の血と遺伝子を引き継ぎ、さらに物心付いたときから、つい1月前まで一緒に暮らしてきた。

 子供が、生き方や生活態度、物事の考え方の模範とするのは最も身近な人だと聞いている。例えば両親。

 俺の場合は父親がそれに相当する。


 しかし、そこは英知を極め、万物の長とされる人類の末席に位置する者・俺。知恵と勇気と友情という武器を持っている。そうそう影響されるものではないと信じたい。

 まして、影響力という存在に気づいているのである。相談する仲間もいる。対抗手段をとれるという強みがある。


 しかーし、事が異世界だと、呪いとか運命とか血の定めとがあり、個人の意志の力ではどうしようもなくなるらしい。

 現世にあっても、平安時代辺りでは怨霊だとか怨念だとか呪縛などがあったようだから、侮ることは出来ない。たった1200年ばかり前の話だ。


 ここは異世界ではないし、時代も現在。神や怨霊は、科学がそれにとって代わり、科学技術が魔法と化していてスマホの中身は解らん。


 もといして――

 今はね、今は。今は親父の影響が色濃く残っているだろう。でもそれは上辺だけであり、中心核は俺のままであり、上辺などこれからどうとでも変えられる。学習できる。人は学ぶことの出来る動物なのである。


 だがしかし!

 この世で一番嫌な人間の血と遺伝子を引き継ぎ、物心付いたときから――振り出しに戻る。


 ぼぅっ! としていたせいで、髪を2回洗ってしまった。体は洗ったか覚えていない。洗ったような気がする。うん、石鹸をタオルにゴシゴシしていた記憶がある。

 いかんいかん! シャキッとしろ碧! このドアの向こうは睦月家の方々がいる空間。気を引き締めてドライヤーッ!

 ばんとドアを開け、リビングへ。


 冷蔵庫からオレンジーヌを出してコップで飲む。

「ぷはぁ! うめぇ!」

 ぐいと手の甲で口を拭う。


「おーいアオイー!」

「どうした、ナオ?」

 次に風呂へはいる予定のナオが手をパタパタしている。目がリビングに。リビングではおじさんが新聞紙を大きく広げて読んでいた。


「アオイ、パンツいっちょう。おブラなし」

 何を? と思いながら視線を下に向けると肌色が目に入った。

 膨らんでるパイパイだ。おブラなしのパンツ一丁だ。

 ぼーっとするにも程がある。


「おじさん、ごめん!」

 慌てて脱衣場へ飛び込んだ。


 もう大丈夫だ。Tシャツにトレーナーのズボン。寝るときの姿だ。

「何ぼーっとしてるんだよ」

「ぼーっとしてるとこうなる、という良い例だと思おうよ! ポジティブに!」

 ナオは心配して言ってくれていると思う。でもこればかりは、自分自身の気力の問題だ。


「それに、タダで見られたんだから、そっちに被害はない。俺は見られてもどうとも思ってないから、こちらにも被害はない。解決!」

 ナオは少し考えてから、「それもそうだな。きょうはこれがあるし」と訳の分からぬ事……あ、解った!……を言いながら風呂場へと消えていった。


 俺も今日は早く寝るべく、2階へ上がった。

 おじさんは、俺に目を合わせることなく、穴が空くほど新聞紙を見つめていた。

 ……でもあれだよな。おっぱいとおパンツ見せた方が「ごめん」って詫びる必要はないよな?

 

 ラインで翠とお話をし、「おやすみ」を言ってから部屋を暗くして、ベッドに仰向けになって目をつむる。


 頭の中に湧いてくる「人の心がない」という単語。大きさを変え、形を変え数を変え、頭の中をグルグル回り出す。脳の演算可能領域のあらかたを「人の心がない」が占めた。体感で90%だ。残り10%が演算可能領域である。10%じゃ、精度の高い演算処理は不可能だ。

 10%で別のことを考えよう。そして、あわよくば、その思考領域で90%を取り戻そう。


 何か無いか? スタンドを灯けて文庫本でも読むか?

 大人は、どうやってこの問題に対処しているのだろうか? 大人は経験豊富で尊敬できるし、模倣するのも良かろう。酒か?

 ノリ子さんのお酒をこっそりと飲む。未成年だからダメ!


 ちなみに、隣の部屋のナオは何をしているのだろう? あいつ、宿題を終えてないはずだから、一生懸命追い込んでるのかな?

 それとも、自家発電か?

 自家発電だろうな。実用限界下限ギリの膨らみを見たからね。初めてじゃなかろうか? 膨らんでるのを直に見たのは?


 何やってんだろうなウケケ! スケベヤロウが!

 ……それもアリかな?

 頭から「人の心がない」を追い出す方法として。


 ものは試しだ。えーっと、あれがああなって、こうなって、……これをすると……ハマった! いける!

 脳味噌の作業処理領域を100%取り戻すことに成功した。

 スケベは未成年者を救う。

 なんというパワーワード!

 

 翌朝。

 目覚ましが時を告げる5分前に目が醒めた。自立的に目が醒めた。俺は、目覚ましにスマホを使う習慣がない。

 すっきり爽やかである。一晩寝たら、昨日の悩みなど、どうでも良いような小さいことに思えてしまった。


 一番の良薬は睡眠だな。

 問題は、睡眠誘導剤にナニを用いるかだ。なるべく健康的なのがよいと思う。

 大人の人達は、健全で健康的なストレス対処法を持ってるんだろうな。そこが尊敬できるところだ。

 

 ダイニングへ降りると、先にナオがテーブルに着いていた。

 例えるなら、散髪したてのような爽やかな雰囲気(オーラ)がにじみ出ている。煩悩から最も遠い表情だ。


「やあ、アオイ。おはよう! 良い朝だね。今日も一日頑張ろう!」

 ……何回発電したんだ? これ、エネルギー化すれば売れるんじゃないか?

 一回当たりの発電でレーザー砲が一回撃てる高出力。誰か小説を書いてくれないかな?


 朝の支度を済ませ、部屋に戻ってセーラー服にお着替え。

 姿見に映してチェック。いつも通り綺麗だぞアオイ。よし!……。


 スカートに手を入れる。おパンティのゴムに指をかけ、降ろす。足から抜き取る。

 今、俺、おパンティはいてない。

 姿見の前で足を肩幅に開いて立つ。見た目は清純なJC。でも……

 き、今日、このままで……。

 

 下へ降りると、すでにナオが玄関で靴を履いていた。

「待て待て待て! 俺も行くから!」

「おせえよ!」

 ドタドタしながら家を出る。

「「いってきまーす!」」

「気をつけてねー!」


 ノリ子さんが声だけで見送ってくれた。

 今日は心地よい風が吹いている。スカートの裾をひらりひらりと揺らす。

 お蔭でスカートの中も涼しい。


 おパンツ? もちろんはいてますよ!

 ノーパンで学校へ行くわけないっしょ?



3章、おしまい


一旦、休憩します。

再開できるかどうか、体力的、精神的に確約できませんので、一旦完結と致します。

ご愛読ありがとうございました。

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