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6.文明の差


 クラス全員の目対、俺の目。


「なにか?」

 俺の発した言葉を合図に、各々、元の会話にもどりはじめる。


「ありがとう。あなた、すごいわね」

 女将さん的な子が、にこにこ顔でウンウン頷いていた。


「ねぇねぇねぇ、幼なじみのかっこいい子。後で紹介してよ」

 顔の派手な子が肩をくっつけてくる。うひょー! 早速の役得! 都会の女の子はこの距離感がデフォルトなんだ! ヨシ、学習した!


「あいつは睦月直央。理系の男で彼女募集中だ」

「……え? 紹介してくれるの?」

 派手な子は眼をぱちくりしていた。なんで?


 そんなことがきっかけで、ウマが合いそうな感じがした3人グループに混ぜてもらうことにした。俺、女の子と喋るの初めてだ。上手く舌が回る気がしない。


 簡単な自己紹介によると、ちっこいのが三島雪・ユキちゃんで、女将さん的な子が、夏目草・そうちゃん。派手な子が、双葉このみ・このみちゃんだ。


 一つの机を中心に椅子を寄せ合って額を付き合わせている。女の子の呼吸音が聞こえる距離だ。

 ああああ、なんか血圧が上がってきたぞ。女の子の吐く息には血圧を上げる効果のある物質が含まれているに違いない。

 ちっちゃい子以外の子の胸の立体感がたまらん! ちなみに俺はちっちゃいこと同レベルだ。

 助けが欲しくてナオを目で探すも、すでに元の場所にいない。さらに探すと、隅っこの方にいた。


 あいつも男子3人グループに混ざっていた。さっき野球やってたグループだ。

 なんか、ちっちゃい女顔の男の子と、真面目そうな眼鏡の子と、入学初日から制服を着崩したナンパ風の今時珍しいニキビ面の3人だ。あっちはあっちで上手くいってそうだから、俺はこっちに集中する。


 ユキちゃん、そうちゃん、このみちゃんが繰り広げるお話を頷きながら聞くのが俺の役目だ。

 女の子の柔らかくて可愛い声をこの距離で聞けるだけで、心が穏やかになる。たぶん、もうすぐ戦争はなくなるだろう。女になって良かったと思う。……いやいやいや、元々俺は女なんだから、女になるって表現はおかしいけど。


「んなんな! さっきの! アオイちゃんがパシィーッってボールを掴むシーン! 胸アツなのら!」

 ユキちゃんのテンションが高い。身振り全てオーバーアクションだ。こういう陽キャラは俺の好みだ。ユキちゃん。……いっしょにおっぱい大きくしようね!


「あれくらい余裕だろ? 目で追えてたし。空気抵抗が大きそうなボールだったし、途中から失速してたし。掴めなくったって、かわしたりはたき落としたり位はできるだろう?」


 ぶっちゃけ、小学一年生レベルのアクションだ。


「わたし、できないー!」

「ユキちゃんむりなのらー!」

「わたしも無理だねー。アオイの身体スペック高くね? バク宙やってバク宙!」

 このみちゃんのウケがいい。


「おう!」


 女子に煽てられ天に舞い上がった俺は、椅子を階段に、机に駆け上がり、その勢いでバク宙した。

 ふわり。軽く膝を曲げて体重を吸収。すんと椅子に腰掛け元通り。これくらい、ナオでも出来る。


「うにゅあー!」

「え? え?」

「はっ? はっ?」


 目を丸くする3人。周囲の子達も何人かは見ていたようで、目を開けていた。


「じょ、冗談だったのに。いきなりする?」

「え?」


 冗談でしたか? 都会の女の子の冗談は難しい。

 俺のバク宙を目撃した子達が見てない子に話したりして、部屋中がざわついていた。


「馬鹿アオイ!」

「なんだとぉ?」


 小馬鹿にしきった目をするナオを喧嘩上等の目で睨み返す。


「はーい! 着席! ざわつかない! 朝礼を始めまーす!」

 先生が入ってきた。先生は若いおんなの人。女教師だ。「女教師」。何というパワーワード!


 アンダーフレームの眼鏡に、白いブラウスに黒いタイトスカート。盛り上がったお胸に、引き締まったウエスト。お、おとなのおんなのひとだぁ! 法的にえっちできるおとなのおんなのひとだぁ!

 このお方を上位命令者と認識した俺は、そそくさと席に座った。


「現金なヤツ」

「同類」


 ナオは黙った。気まずそうだ。たぶん、心当たり有るのだろう。



 文月礼子ってのが先生の名前だ。知的美女。ボンキュッな女教師。ロングのタイトスカートとアンダーフレームの眼が攻撃力高そうッ。

 年齢に言及しなかったけど、大学卒業年数などを想定すると、御年27歳±1歳。ウホッ!


 挨拶と簡単な説明があった後、席替えがあった。最初は先生が組んだ席に座るというものだった。一月後に、改めて抽選方式の席替えを行うとのことだ。


「隣じゃん」

 俺の席は窓辺の真ん中あたり。ナオの席は俺の横。先生の作為を感じる。


「アオなんが後ろんなー」

 前の席は赤ちゃん化したユキちゃん。

「前がアオイっち」

 後ろの席が派手顔のこのみちゃん。

「背が高いと不利。でも見渡せて良きかな」

 さらに後ろが、女将さんのそうちゃん。


 どうやら、この3人は対外交渉能力が高いらしく、先生は、閉鎖地域で育った俺たちへ意図的に当ててきたようだ。


 意図に気づいた俺が向ける視線の先で、文月先生がサムズアップしていた。

 ……可愛い子ばかりだからヨシ!


 その後、端から順に自己紹介させられた。

 名前とか趣味とか……趣味が燻製作りという渋いのもいる。趣味が石集めってのは分かりづらい。

 あと、読書、スポーツ系、アニメ、音楽、電車、ゲーム、ミニ四駆。多種多様なのが出てきた。

 都会の若者は選択肢が多くて良いなぁ。羨ましい。俺ら、昆虫採集かハムスター飼育しかねぇの。


 ……あの大量のハムスター、国の仕事をしている親父達が仕事で使うって言ってたけど、何に使うんだろう? カワイイを国の外交に使うつもりか?

 俺たちは島暮らしだったから、趣味の選択肢が少ないんだよ。オサレな珈琲屋さんなんて無いし、スイーツはナオのおばさんが作ったサツマイモシリーズ(繊維質豊富・ダイエット効果)ばっかだし、信号機だって安全教育用の書き割りしかないし、スポーツったって2人で野球もサッカーも出来ない。やったけど。精々が相撲か合気だ。ちなみに俺が勝ち越しね。


 さて、もうすぐ俺たちの番だ。

 ここ直近、俺が凝ってるのは下着。こんなおパンツが好き、あんなおブラが好き……絶対言えねぇ。一発で変質者確定だ。


 だが、安心してください。ナオと一緒に考えて、対策はとられている。

 いよいよナオの番。ここまで来るのに大変長かった。もはや集中力は女子の挨拶だけしか発動しなくなっていた。


「……そして、趣味は温泉です。島に自然かけ流しの露天温泉があったので、毎日のように入浴してました。こちらに来ても温泉や銭湯を巡りたいと思います」


 うわー! っと歓喜の声。羨ましいだろう?

 実際あったんだ。海チカで塩気がやや多かったけど。……島の気候は常夏なもんで、暑くて毎日なんか行けないけど。

 海で遊んだ後くらいかな? 塩を落とすために。


 そして一列分後にやってきた俺の番。後半も後半、俺の後は数人だけという終了の一歩手前だ。待ち疲れてだらけている。


「如月碧。そこの睦月君と同じ島から来た。趣味は温泉。以上」

 手早く済ませて、ストンと着席。

 でも、なんかクラスがざわついている。


 先に自己紹介が終わったユキちゃんが、小声で喋ってきた。

「睦月君と露天風呂ん入ってたンなー?」

「うん」


 俺の周囲で空気がザワリと動いた。


 次、派手顔のこのみちゃんなんだけど、なかなか自己紹介を始めようとしない。

「今は?」

「入るわけないだろ?」

 笑った。温泉もないし。家風呂狭いし。


「だにょねー」

 そしてざわつきが終わった。やっと、このみちゃんの自己紹介が始まった。

 

 

 今日は式典と顔見せ。そしてクラブ活動を含む諸々のオリエンテーションで終了した。

 この間、クラスメイトの俺を見る目がなんか変だ。虐めとか暴力に繋がる悪い目ではない。遠慮しているというか?


「なあ、ナオ。自己紹介、俺なんか不味いこと言った?」

「僕も分からない。アオイんところでざわついていたよな? あとバク宙でおパンツ見えてた」

「それだ!」

 迂闊!

 三々五々、帰り支度しているクラスの中、俺たちはコソッと話し合っていた。


「あのなー……」

 派手顔のこのみちゃんだ。眉間に皺を寄せている。


「男の子と女の子がプールじゃなくて風呂だろ? 想像するよ。水着で入ってるなら水着を付けてるって一言付けなきゃだよ!」


「素っ裸だったけど」

 男同士、何の恥じらいがあると?

 このみちゃんが息を呑んだ。


「馬鹿アオイ! 違うだろ!」

「痛てっ!」


 ナオから脳天にチョップが入った。そうだ、俺、女の子だった!


「ぷっは」

 このみちゃんが呼吸を再開した。


「睦月クンだけでも理知的で良かった」

 このみちゃん、ほっと息を吐き胸に手を当てる。


「股くらいはタオルで隠しているって言えよ!」

「ああ、それか!」

「違うわバカヤロー!」

 このみちゃんが怒った。なんで?

 

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