10.忘れてた
晴れて13歳。
13歳と1日。
ようやく12歳から脱することが出来た。12歳までは小学生と同じオコチャマだ。13歳ともなれば、りっぱな大人である。コーヒーだって飲んでるしな!
……あと1週間以内にお印が始まる予定だから、身も大人である。女子の方の……くっそ!
そんな感じで、起きたときは昨日の余韻で晴れやかだったが、お印を思いだして憂鬱になった。
でも、ゴハンを食べておなかがいっぱいになると気も晴れたが、これから学校かと思うと気持も沈む。
でも、校門で翠の顔が見れてハッピーとなる。
翠ったら、ごく自然な感じで、さりげなく小指の指輪を見せてくれる。俺も挨拶する体で小指のリングを見せる。
二人してニマっと笑い、それぞれの教室へ。
2人だけの秘密である。生徒指導に見つかりませんように。
夕べ、遅くなったのでお母さんが車を出してくれた。翠も後部シートに乗り込んだ。
睦月家が見える直前の角で降ろしてもらった。親父対策だ。
連絡しておいたので、ナオとおじさんが迎えに来てくれていた。親父がめんどくさい。
ちなみに、翠からのプレゼントは高級チョコレートだった。……俺、チョコレートが好きって何処かで言ってたっけ?
教室はホームルーム前のざわついた雰囲気だ。こんな雑踏感も俺は好きだ。
ざわついた雑踏の中、俺は女の子のおパンツをはいてるんだぞ! と、大声で叫びたい衝動に駆られている。
「アオイっち、昨日のチョコレート、どうした?」
このみちゃんが意地悪するぞ! って顔をしている。女の子の、こんな表情も可愛くてしかたがない。
「結構食べたんだけど、あの量は食べきれない。一日じゃ」
残りは冷蔵庫にしまってある。
「えぇ?! 全部一人で食べる気マンマン?」
「せっかくもらったチョコだし。時間がかかっても全部食べるさ」
女の子からもらったチョコだぞ! 女の子が一生懸命選んで、素手で渡してくれたチョコだぞ。
あ、夕べ、翠が言ってたことが理解できた。
あのチョコには尊さが+1されている。良いにおいがする……気がする。ナオといえど、ノリ子さんといえど、渡したりはしない。
「でも、当分……5年くらいチョコはいいかな?」
少々オエッって来ている所もある。次はバラエティに富んだ甘みを要望したい。
「ククク、来年のバレンタインは覚悟しておきなさい」
「はっはっはっ! 何を言うかと思ったらこのみちゃん。バレンタインでは女の子が……あっ!」
俺、王子様らしいわ。
「気づいたようね、このズカタカラがッ!」
「チョコはもう嫌だ。出来れば現金が良い。あと会計係も募集する」
「……詳しく話を聞こう」
このみちゃんが男前の顔をする。
「きりーつ!」
あ、文月先生が入ってきた。
さて、無事ホームルームも終了した。
少しの休憩を挟んで――
「如月さん、一緒に職員室へきてください」
文月先生だ。アンダーフレームに収まったレンズがキラリと光る。
なんだろう?
美人女教師の命令には逆らえない。ほいほいと付いていく。
連れてこられたのは「生徒指導室」。え? 俺と2人きりで? こんなシチュエーションのAV見たこと有るぞ!
「如月さん。小指のリングですが、校則違反です。今日は見逃してあげますから、直ちに外して隠しておきなさい。葉月さんにも如月さんからお話を通しておいてね」
美人エリート女教師の観察眼侮りがたし!
「妹さんとお揃いにしたい気持は解るけど、大事な物こそ学校へ持ってきてはいけません」
ばれた? 妹との関係ばれた? ヤバいんだけど!
俺の脇を冷や汗が濡らす。
「いないと思っていた姉妹がいた。妹が出来た。嬉しいのね。その気持ちを尊重したいわ。先生が言いたいのはそれだけ。早く教室へ戻りなさい」
先生の話しぶりから、俺と翠のもう一つの関係はバレてなさそうだ。
大きなため息が口を割って出た。安心したー。
「はい! 有り難うございます!」
俺は45度に腰を曲げ、礼とした。
……先生にならバレてもいいんだけど、翠が秘密にしましょうねっていうものだから。……乙女の秘密って、なんか滾らない?
「ええー!?」
1時間目と2時間目の間のお休み時間。翠が吠えた。
先生に見つかったことをこっそり知らせに来た席でだ。
「校則違反は校則違反なんだから、没収される前に手を打とうよ」
「うーっ。がるるるるる」
「泣くなって。そうだ、一緒に外そう」
「みーみー」
翠は、泣く泣く指輪を外した。
「帰ったら真っ先に付けようね!」
「もちろんだとも!」
翠は何をしてても可愛い。
学校が終わり、家に帰って、さっそくリングを着けた。
「でへへへ!」
手を表にしたり裏にしたりして、リングを眺める。
自撮りなんかをしてみる。
一人にやけていると、翠からラインが入ってきた。
開けると……可愛い翠の手の画像。リングが着けられている。
俺も手の画像を送付した。
すぐに送付したのがお気に召してくれたのか、翠の機嫌が良い。やたらハイテンションなラインが入ってくる。
しばらくラインのやりとりで時間が消えていく。心地よい時間が過ぎていった。
俺のテンションも爆上がり。今日はこれでいこう!
「ナオ、お誕生日おめでとう!」
水色ボーダーおパンツに、新調した本物のブラ姿で、ナオの部屋へ入った。
「僕の誕生日は一昨日だったけど、ありがとう。最高のプレゼントだよ!」
ナオは涙ぐんで喜んでくれた。
テンションアゲアゲのまま、その日は終わった。
して――
翌日。
ナオちゃんとそうちゃんが真面目な顔をしている。
「アオイっちさー、文化発表会の練習している?」
「今日から歌合わせなんだから、もう考えてるわよね? 間奏のダンス」
……全然考えてませんでした
「ナオ、協力しろ!」
「なにがなにがなにが?」
こいつ、俺のピンチだってのにのんびりしてやがる!
「間奏の受け持ちだよ!」
「主語述語と目的語を言いましょう」
「文化会の出し物で、間奏のパートを任された。寸劇するから協力しろ。ついては、才能有りそうな男子を手配してくれ」
間奏で寸劇をプロデュース&主演することになっていた。任命権をもぎ取っていたので、男子をこき使うことにしたのだ。
「……男共の手配なら僕が口を利くより、アオイが直接声に出した方が早い」
そうか?
そうだった。
俺が募集の一声をかけたら、クラスの男子ほぼ全員が挙手してくれた。
人材は湯水のごとし。ただしキショイ。
構想は俺の頭の中で出来ている。今さっき考えた。仮面ネコライダーショーを参考に、だ!
ナオを敵、パンサーグロの怪人役にし、やられ役に動ける者を持ってきて、颯爽と俺参上。ナオをこてんぱんにやっつけて歌の2番に繋げるという完璧なプロデュース。
「ナオには派手な技を一発、繰り出してもらいたい。ついては、アレ、まだ出来るかな?」
「うーん……練習してみてだね。一応出来る方向で考えてもらっていい」
あらかたの男子は、演奏と裏方に回る予定だ。楽器演奏が壊滅的なナオは、寸劇に一も二もなく飛びついた。
間奏の寸劇に出る者は上記賦役を免除されるからだ。
「では、この中で柔道経験者は?」
一人いた。むっつりスケベの佐藤だ。生意気にも小学生の初段持ちだそうな。
念のため聞き取りをしたところ、受け身は完璧にマスターしているとのこと。よしよし。
あとは身体にキレがある連中を4人ばかり選んで……吉田を無視していたら、悲しそうな顔をしていたので選んでやった。




