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6.またまたお泊まり


 お母さんと翠、そして俺の家族3人で近所のスーパーへ買い出しに来ている。


「何か欲しい物があったら籠に入れていいよ」

 とお母さんが言うので……

「肉。ハム。冷凍チャーハン。ソーセージ。健康を考えて、マグロの刺身」

「カスピ海ヨーグルト。美肌ドリンク。イリジウム水」

「はいはい、戻して戻して」


「あ、お母さん! 赤身の刺身は健康食品なんだって! コラーゲンたっぷりなんだって!」

「それ安い方のヨーグルトよ! わたしが欲しいのは高い方。それ特売のサイダー!」

 お母さんは時々嘘をつく。ヤレヤレ、悪い癖だぜ。

 

 晩ゴハンはミンチカツだ。わーい!

 俺、これにウスターソースかけて食べるの大好き!

 付け合わせのキャベツの千切りは俺がこしらえた。ゴマベースのドレッシングが美味しいんだ!

 俺用・信楽焼お茶碗に山盛りよそって、もしゃもしゃと食う。

 美味い! お母さんと美少女翠が素手で手ごねしたミンチカツは、ファミレスのより数倍は美味い!

 翠とお母さんは、飯をカッ喰らっている俺を見て微笑んでいる。何が面白いんだろう?


 でもって、お風呂。

 いつものように一緒に入ってくる翠を捕まえるお母さん。

 俺が洗っている間に入ってこようとするお母さんを捕まえる翠。

 デフォだ。

 

 でもって、さして面白くないテレビを……今夜はインディジョブズ・シリコンバレーの伝説だ。3人でキャッキャ言いながら、かつ、ツッコミながら鑑賞した。大いに盛り上がる。

 テレビはみんなでワイワイ笑いながら見るのが良い。お通夜みたいな見方をする物ではない。

 そして葉月家消灯時間の午後11時。

 お母さんはお母さんの寝室へ。いっしょに寝ようと誘われたけど、翠の腕力で持って行かれた。

 今夜も翠と一緒のベッドだ。


 一つの狭いベッドの中。翠と枕を並べて天井を見ている。

 明かりは豆球? 常夜灯? のみ。部屋を照らしているのは、オレンジ色のかすかな明かり。

「なあ、翠」

「なぁにお姉ちゃん?」

 これから聞くことに、心臓がドキドキしている。

「俺の何所が好きなんだ? いつ好きになった?」

「んーんふふふ……」

 翠は恥ずかしそうに笑う。その仕草がむっちゃかわいい。さすが本物の女の子!


「あのね、……実を言うとわたし、お姉ちゃんのこと、姉妹って気が全然してないの。だってそうでしょ? わたしたち、13になるまでお互いのこと全然知らなかったんだし。だから、ほんとはね、今でもお姉ちゃんのこと、お姉ちゃんって気がしてないんだ」

 俺と同じ事を翠も思っていたんだ。兄の俺が思ってたんだから、妹の翠だって同じ思いで俺を見ていておかしくはないか。


「わたしは一人っ子として生きてきたの。それでね、お母さんのこと、守ってあげなきゃ、ずっと側にいてあげなきゃって思ってた。わたしはしっかり者にならなきゃって。だから、わたしはクラス委員長なんかをやってるの。大人になる練習のつもりで」

 翠は布団を掴んだ。ギュッてなって皺が寄ってる。

「でね。中学へ行ったら、変わった子がいたの。背が高いし、陽気だし、良く動き回るし、……可愛いし。わたしより可愛いし。気になってたの」


 俺、登場。


「でもって、あの件ね。びっくりしたわ。だって、可愛いのに男の子みたいだし、頼りがい有りそうだし。

わたしがお姉ちゃんを好きになったのはこの時かな?」

 そうか……やっぱり、憧れから来てるのか……。 

 アハハ……そうじゃないかと思ってたんだけど、的中しました。俺の勘は冴えてるぜ!

 あははは……。もう寝よう。


「でも、今から思うと、あの時はまだ遊びだったのかも」

 状況が変わりました。


「その時はね、わたしには気になる男の子がいたの。でも、お姉ちゃんが、お母さんの面倒を見るって言ってくれた事あったよね。あの一言で、わたしは本気でお姉ちゃんが好きになった」

 えーっと……

「わたしと一緒に色んな物を支えてくれる人なんだって。頼りがいのある人なんだって!」

「そうかな? 俺、この前、泣き言ったし。いつもノリ子さんやナオを頼ってるし」

「お姉ちゃんは強い人なの。わたしの……強い人なの!」

 俺って強くないよ。だって、親父にこてんぱんにされてきたんだから……。

「お姉ちゃんが……あの島で、あの男と暮らしていて……わたしだったら自殺していた! でもお姉ちゃんはそれに耐えて! 生きて戻ってきた! 選ばれたのは、わたしだったかもしれないのに。わたしが選ばれてさえいたら、お姉ちゃんはこんな事にならなかったはずのに!」


 そうかぁー……あの島で親父に10年耐えてきた年月は、辛いだけの時間じゃなかったのかー。

 あの10年間、俺は、この子達を助けていたのかー……。

 俺は、役に立ってたんだ。俺は親父の言うような、だめな男じゃなかったんだ。


 嗚呼、俺は生きていて良かった。生きていて良かったんだ!


「ごめんなさいお姉ちゃん」

「なーに言ってるかな? それとこれは別物だよ。済んじまえば、それでお終い。いつか笑い話になるって! ほら、誰かが言ってた『死なない怪我はかすり傷』って。最後まで生きてる者が偉いんだぜ!」

 俺は、無理をして肩をすくめた。


 そして――


「俺、やっぱり翠が好きだ」

 翠の首に腕を回して抱きしめた。

「お姉ちゃん! わたしも好きよ。大好きよ!」

 翠が俺の背中に腕を回して抱きついてきた。

「翠ッ!」

「お姉ちゃん!」

 そして、俺たちは……。

 

 

「おはよう」

 むくりと起きあがっての第一声。

 時刻は……まだ6時前。外れたボタンを止め直してから、ガシガシと頭を掻く。

 横で翠が寝ている。

 あられもない姿……あわれもない姿だったっけ? で寝ている。

 パジャマを直してやって、もう一度横になる。翠の可愛い顔を見ながら横になる。


「う、うーん」

 流石に明るい。光が瞼を通して眩しいのだろう。翠が俺の腕に抱きついてきた。

 寝顔が可愛い。少し開いた唇が可愛い。はらりと流れる前髪が可愛い。

 あんまり可愛いんで、俺も腕を回す。小さな背中を引き寄せる。翠も顔をくっつけてくる。

 そして……

 

「あれ?」

 時計は朝の8時。

 どうやら二度寝をしてしまったらしい。

「んー、お姉ちゃん、おはよ」

 翠が可愛く目覚めた。お目々をこしこしと擦っている。

「おはよう翠。もう8時だぜ」

「んー」

 翠が微笑んでいる。可愛い。俺、さっきから可愛いしか言ってないな?

 俺はベッドから立ち上がりざま、パジャマを腕から抜き取り、シャツを手に取った。

 

 黒いタンクトップに、ダボめのジーンズ。ベルトを通して。

 それが俺のお着替え姿。

 翠は可愛いワンピースだ。可愛い。俺の語彙力ぇ。

 お母さんは、焼き上がったばかりのフランスパンにパン切り包丁を入れている。

「碧はいつものように底の硬いところが良いのね? ほんとうに底は切り取らなくても良いの?」

「うん、付けといて」

 硬いのが良いんだ。バリバリと歯を立て噛み千切るのが良いんだ。歯を使え、歯を!

「わたし無理ー」

 翠の可愛いお顎じゃ無理だ。お姉ちゃんの白いところをあげよう。柔らかいぞ。


 俺はコーヒーを入れる。お母さんが俺のために挽いた豆とペーパードリップ一式を買っておいてくれたんだ。もはやコーヒーは苦いからダメなんですと言い出せなくなってしまった。

 コーヒーカップに口を付けた。お母さんと翠が頼もしそうな目で見てくれている。応えねば。苦いコーヒーをキュッと飲み干す。うげぇ!


 アンコとバター(マーガリン)をたっぷり塗ったパンをバリバリ音を立てて食べながら、プリティキュアーの放映を3人で見てる。お母さんも小さい頃見ていたそうだ。

 当時は白と黒だけで、しかも接近格闘技物だったらしい。信じられないな。

 今シリーズは男の子の戦隊だ。相変わらず止め絵が多いのな。


 普通の朝。普通の朝食。普通のテレビ。

 違うところは言いっこ無しだ。

 さあ、日曜日を楽しもう!

 



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